ep.0 プロローグ
初投稿作品を数年越しにリメイクしてみました。
よろしくお願いします。
よく眠れた朝のことだ。
大学を卒業して新しく社会の一員となった俺は、入社三ヶ月目となる会社に向かう途中だった。
毎日乗る電車、初めて聞く金属が擦れあう音、目の前が暗くなる瞬間。
それが電車の事故だと気が付いた時には、周囲の悲鳴を聞きながらどこか他人事のように感じていた。
(ああ、死ぬのか。まだやりたいことあったのになぁ)
体の感覚がなくなり、思考は鈍くなる。真っ暗になった視界が薄れて、
薄れて……?
(ん? なんで意識を失わないんだ?)
『地球世界の人類種は珍しくないが、日本人か』
「は、はは。誰、っすか?」
声がでる。失ったはずの視界が戻ったように感じるが自分の体以外は何も見えない。ちなみに素っ裸である。
真っ暗な空間に上下左右の感覚もなく、落ち着いた女性の声が聞こえ、状況が把握できずに混乱してしまう。
ちなみに学生気分の抜けない口調は混乱によるものではない。
『我は『契約と代償』を司る神。貴様は死して輪廻の渦へ還ろうとしているところだが、契約により貴様の魂魄は我が地球世界の神より譲り受けた』
知りたいことを全て言われてしまった。心を読まれているのか定型文なのか、こうも先回りして言われてしまうと言葉が出てこない。
まったく理解はできていないのだが。
「神様なら、生き返らせたりとか……?」
『貴様は死に、地球世界で蘇生することはできない。これは不可逆な事象であり、我の権能では実現しえない』
「じゃあ、俺は天国に行くんですか」
『妄信的に楽園行きを口にするか。愚かであるが、今は楽園でも地獄でも貴様には関係のないことだ。もう一度聞かせるが、貴様は我が地球世界の神性と契約を交わし、正式に譲り受けた。よって、貴様が輪廻に還るも楽園に向かうも我が決定することである』
この自称神の女性はわざわざ契約をして地球の神様から俺の魂を譲り受けたというが、こんな一般人の魂に何を期待しているのか。
とはいえ、俺はそんなに鈍感ではない。死んで神に会いあの世行きでないとくれば。
「じゃあ、俺はどうすれば?まさか異世界転生とか?」
だいぶアタリをつけて聞いてみた。外したら恥ずかしいが駄目でもともとだ。
こちとら異世界ブーム直撃世代、期待するなというほうが無理がある。
『異界において受肉できる。その上で貴様には我と契約し聖戦の駒となってもらう』
「聖戦?駒?」
『神代の異界の地で数多の神々を退け、我が統治する世界を得るために。その為だけに貴様は第二の生を受けることができる』
なるほどわかりません。神様大戦しているところに放り込まれるような英霊的な力とか持ってない。ヤマトタケルとかヘラクレスとかそんなんだろうか。無理。
しかし、この自称神様は事務的で冷たい印象を受けるが信用できそうだ。詳しく説明してくれるし、俺のメリットである異世界受肉(?)ができるとプレゼンしてくれているのだ。
なにせこちとら異世界ブーム直撃世代だ。チートせざるを得ない。
『契約は受肉と我が祝福。代償は服従と現所属世界からの永久追放。署名せよ、貴様の魂魄に猶予はない』
「説明が不十分だと思います!」
前言は撤回しようと思う。質問攻めにしようとしていたのがバレたのかもしれない。
全く理解不明な状態なのだが、だんだんと体が軋むような感覚を覚える。痛みはない。しかし、魂が歪み破壊されていくような、あまりにも不快な感覚。
(良くわからんけどもやばいのだけは感じる……。はやくここから出ないと!)
ふと気が付けば目の前に全く読めない文字の書かれた、契約書らしきものが浮いていた。きっと書面の下にある横線のあたりに署名すればいいのだろう。
早くここから出たい。そんな焦燥感に駆られ、出られるならばと署名しようとするが筆記用具はない。
そこで俺は、自分でも引いてしまうような手段に出た。
自分の指先を噛み千切り、ダラダラと流れ出るその血液をインク代わりに署名した。
『霧島 日向』、と。
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