抗争と奔走
皆さんどうもどうも干からびたナマコです。第五十話、投稿しました!
「大砲、一斉放射ー!撃てぇーー!」
爆音が鳴り響き、無数の砲弾が飛んでいく。その殆どがヴルトロスに命中した。しかしその足は止まらない。
「ガアアアアアアア!」
まるで何事もなかったかのように邪龍は駆ける。己の愛する者へと向かって。
「次弾装填、早くしろ!大天使に指一本触れさせるな!」
「待て。」
指揮官の肩に手を置いたのは、デヴィッドだった。
「…俺が出る。」
「デヴィッド卿!しかし、」
止めようとする指揮官の手を払い、デヴィッドは邪龍を見据える。
「あれは俺が、命をかけても止めねばならんのだ!」
「えっ、それはどういう…」
最早説明する暇もない。デヴィッドは一人、ヴルトロスの元へと走っていった。跳躍し、死角から奇襲を仕掛ける。
「はっ!」
「ギャルルゥ!?ゴアア!」
背中を切り裂かれ悲鳴をあげるも、ヴルトロスはすぐさま向き直る。背中の傷もすぐに塞がった。
「お前がこれ以上無茶するな!後は俺に任せろ!」
「ガアウッ!シャッ!」
デヴィッドの言葉にも聞く耳を持たず、ヴルトロスはその怪腕を振るう。しかしデヴィッドの剣さばきが直撃を許さない。
「『雷突』!…!?」
「ゴルラルルル…チッ。」
デヴィッドの両手剣がヴルトロスの左胸に突き刺さる。しかし、剣が深く刺さる前にデヴィッドは身を引いた。
(今、何をしようとした?)
ヴルトロスが取った行動は、出遅れた回避でも、剣を抜こうと力むものでも無かった。であれば考えられるのはただ一つ。
「カウンターか…厄介だな。」
デヴィッドが対抗できているのは、鍛え上げられた剣技でいなしているからに過ぎない。一発でも拳が入ればタダでは済まないだろう。
「ギャオウッ!」
ヴルトロスの拳が迫る。紙一重で避けると、残った左手の爪が迫ってきた。
「くっ!」
剣で攻撃を受けるも、押し負けて吹き飛ばされる。
既にヴルトロスは口から雷を放つ用意をしていた。
「まだ、負けるわけには…」
『ギアアアアアアアアアアアアア!』
「……グルル?」
突然聞こえた謎の音にヴルトロスが周囲を見渡す。敵は、地面の下にいた。
「ギアアア!」
「!?ガウッ!ガアッ!」
地中から出てきた巨大ムカデが邪龍に噛みつき地中に引き摺り込もうとする。その姿に、デヴィッドは見覚えがあった。
「君は…確かゲルモンドの!」
デヴィッドの予想は当たっていた。ヘレシーキメラのトップ、ゲルモンドによってムカデの力を得た少年。その変身した姿だった。
「ジジジジジ…ギアア!」
「ガルルルアアウ!」
ヴルトロスがムカデの頭を掴み地中から引き摺り出す。するとデヴィッドに向かってムカデを投げつけた。
「マズイ!」
飛んでくる大質量を前にデヴィッドが構える。しかしその時、予想外の出来事が起こった。
「ジジ…ジジジジジ!」
ムカデはデヴィッドに噛み付いたのだ。
「!?…なにを!?」
「騎士団なんか…信用しない!大天使様は、俺が守る!」
少年はゲルモンドに感謝していた。己に戦う力を与えてくれたことを。だからこそ、ヘレシーキメラを壊滅させ、ゲルモンドを殺した騎士団を信用できなくなっていた。
「待て、こんなことをしている場合では!」
「だから早く終わらせてやる!」
ゲルモンドは己の手駒とするために民衆を扇動していた。その影響が、鬱憤の溜まった一部の民衆を焚き付けていた。
「あの少年に続け!俺らでこの国を変えるんだ!」
「そうだそうだ!騎士団なんて信用できるか!」
王都内でも内乱が起きていた。騎士団の大半が戦に出てしまっているため、鎮圧は不可能に近かった。
「何の騒ぎかしら?」
「うるせえ引っ込んでろ…ヒッ!」
内乱を起こした一人が情けない声を上げる。民衆の視線が集まった先にいたのは、
「今度は何があったの?あなた今、アタシを殴ろうとしたわよね?」
口元だけは笑っているノミクオ王子だった。
「…うるせえ!お前ら王族も信用できねえ!俺らが信じられるのはゲルモンド様だけだ!」
「成る程、本当は正しいのは王族ではなくゲルモンドさまでした、と。」
「そうだ!ゲルモンド様は己の利益抜きで俺たちを助けてくださったのだ!」
「根拠は?」
そう言って王子は胸ぐらを掴む。
「ゲルモンドからしたら都合が良いでしょうね。馬鹿みたいに自分を信じる手駒が手に入れば。」
「な、なにを。」
「ま、もう死んだから証拠はないけどね。でも、これだけは覚えておいて。」
一瞬微笑んだ後、冷たい目でノミクオは言った。
「行動するなら、ちゃんと取りなさいよ?『責任』。」
「は、はいぃ。」
気力を無くした人々に背を向けながら、ノミクオは言葉をこぼした。
「…この戦争が終わったら、少しは透明な政治をしてあげるよ。」
「!本当ですか!」
「ノミクオ王子バンザーイ!」
「一生ついていきます!」
手のひらを返した民衆に、ノミクオが頬を膨らませる。
「だから、それをやめろって言ってるの!」
王都の内乱は収まったが、戦場では三つ巴の争いが続いていた。
「ゴアアアアアア!」
ヴルトロスが左手でムカデに掴まり、右拳で殴りつける。ムカデの体が大きく唸った。
「止めろ、龍…ヴルトロス!殺してしまうぞ!」
「そうだ、止めろ。お前の目的はノレアだろ?」
突如デヴィッドの横に人影が現れた。フルコースギャングの幹部格を全員引き連れたアルトガだった。
「さっさと行け。そのムカデ野郎も消しておく。」
「…ガウッ!」
ヴルトロスが黒い塊をアルトガに投げつけ離脱する。追いかけようとするデヴィッドをフルコースギャングが阻んだ。
「ボス、それは何です?」
「面白えブツだ。早速使ってみるか。」
そう言ってアルトガが塊を投げる。その正体を察したデヴィッドが血相を変えた。
「止めろ!」
「伸びろ、『剣山』!」
アルトガの合図で無数の黒棘が周囲の敵を貫く。デヴィッドは剣技でいくつかいなしたが、ムカデは体の大きさも相まって無惨にも貫かれてしまった。
「貴様…!」
「良いだろ、まだ死んじゃいねえし。龍牙が上手くやれば俺はあいつの体を調べられる。万々歳だ。」
『固定式大型拡散矢、発射!』
「あ?」
笑いながらデヴィッドに向き直るアルトガに、空から無数の矢が降り注いだ。
「…騎士団か。」
「今だ!陣形五十八式!」
「「おおおおおおお!」」
百を優に超える騎士たちがフルコースギャングを取り囲むように陣形を組む。デヴィッドの横に、この統率の取れた動きを実現した男が立っていた。
「大丈夫ですか、デヴィッド様。」
「ジョーハマ!全体の指揮は!?」
「大天使様を見張っている部隊には三千通りの作戦を記した作戦書を渡して来ました。ご心配なく。」
冷静に状況を報告するジョーハマをアルトガが忌々しげに見つめていた。
「智将ジョーハマ…騎士団に入ってメキメキと頭角を表して来たって噂だったな。まあいい、龍牙はもう送り出したんだ。作戦なんて組まれたところでやられるようなやつじゃねぇ。」
「どうするアルトガ。投降するなら手荒な真似はしないが。」
並び立つデヴィッドとジョーハマにアルトガが無言で拳を振りかぶる。それに反応し陣形を組んだ騎士たちが動くと。
『ーーーーーーーーーーーーーーー!!!』
巨大な魔力の光線が大地に降り注いだ。
「何だ!?ブルル!」
「デヴィッド卿!上を!」
「…動き出したか!」
上空には盾のようなものが浮かんでいる。それは大天使の周りを浮遊していたものと酷似していた。
「大天使、ノレア!」
「ゴルゥ…?」
ヴルトロスは置かれている状況が理解できなかった。
無数の光線が降り注ぎ身構えた次の瞬間。行く先を阻んでいた騎士団が吹き飛んだかと思うと、光線で破壊された地面に埋もれてしまったのだ。
「ガ…ウウ…………ガァッ!」
地上へともがくが、後一歩で出られるというところで身体が動かなくなった。
来てしまったのだ、「反動」が。
「ガフッ。」
観念して目を閉じ、眠りにつく。動けないのなら、一刻も早く身体を休める必要がある。
「…………ん。」
そして数十分後、彼は目を覚ました。
「…何処だここ。」
何処にでもいる一般人、川浪龍牙として。
ようやっと龍牙君が戻ってきました。目覚めたらいきなり土の中ってあんまり想像したくないですね。そんなこんなで、龍の牙と龍の腕、第五十話でした!




