神と命
テストが終わりました干からびたナマコです。第四十八話、投稿しました!
時は、少し前に遡る。
ヴルトロスが戦場に辿り着いた頃、その戦場の外れの森の中でノレアは完全回復を果たした。
『もう、大丈夫ですよ、ノレア。傷は治っています。』
アルマノスがそう言うと、ノレアは深々とお辞儀をした。
「有難う御座います、アルマノス様。必ずや、貴方を貶すものを…」
『いいえノレア、それよりもすべき事があります。あなたの力を、私に貸してください。』
その言葉にノレアは嬉しそうに顔を上げる。
「はい!何をすれば」
「やめておけ。そいつに従うのは。」
会話に突如割り込んで声。その声がした方向に目を向けると、そこには。
「久しぶりだな、クソ野郎。」
『…何故、貴方が生きているのです。』
死んだ筈の亜守斗だった。
「お前ならもう知ってるだろ?俺は『頑丈』なんだ。知りたがりのお前のことだからスパイの一人や二人仕込んでたんだろうが、それなら味方にも死んだと思われる程に死にかけりゃ良いだけだ。」
「そんなことどうでも良いわ。あなた、今、なんて?」
ノレアの目つきが変わり、亜守斗に向き直る。しかし亜守斗は一切動じずに続けた。
「じゃあ話題を変えるか。なあアルマノス。お前の皆殺し計画もいよいよ大詰めみたいだな。新しい身体はその女か?」
「え?」
『ノレア、この男を殺しなさい。今すぐにです。』
アルマノスの言葉に殺気が篭る。しかし亜守斗の言葉を聞いたノレアはその命令に従えなかった。
「でも、アルマノス様。今のは、どういう」
『その男の言っていることは嘘です。彼はギャルブリア帝国の幹部なのですから。』
「じゃあノレアの魔眼で『見られても』平気だよな?自分の考えを。」
『ノレア、一刻も早く殺しなさい。早くしないと、取り返しのつかないことになる。』
「…………」
ノレアは俯き、ピクリとも動かない。
『……仕方ありません。』
アルマノスがそう呟くとともに、ノレアに光る触手を向ける。しかし、雷鎚がその行手を阻んだ。
「もう諦めろ。お前の計画はお終いだ。お前は生かしてはおけないが、せめて一思いに殺してやる。」
『私を殺したいのは、私が貴方の姉、アイラを殺そうとしたからですね?』
「!!」
アイラの名を出され、亜守斗に一瞬の隙が生まれる。その刹那、ノレアに無数の触手が突き刺さる。
「ああっ!」
「『火車門』!」
亜守斗が雷の輪を放ち触手を破壊する。しかしノレアの身体は光の殻に覆われていっていた。
『もう遅いですよ。さあ、貴方ももう満身創痍でしょう。ゆっくりと眠りなさい。』
「断る。」
亜守斗が雷鎚を構える。その全身に電流が走り、服が焼け落ちた。
「お前の口車に乗せられて姉を殺しかけてから、俺はお前を殺すために生きてきた。お前は、危険すぎる!」
『ええ、わかってますよ。貴方が諦めないことも。でも、私が終わらせてあげます。』
「そうやって世界も終わらせて!その先に何がある!」
『何も無いですよ。何も無いから良いのです。貴方と別れてからの月日で更に確信は深まりました。この世は悪意で汚れていると。だから私はその汚れを払うのです。もう誰も苦しまないように。』
「…ま、お前からしたらそう映るんだろうな。姉が悪意に呑まれていくのをみて想像はついてたが、お前も呑まれてるんだな。善意に。」
亜守斗の纏う電流が黒く変わる。その力は、雷だけでなく闇の力も纏っていた。
『私を討っても、ノレアが目覚めれば結末は変わりませんよ?あの子は絶望してしまっていますから。』
「…だろうな。物心ついた頃から信仰してる神に幻滅しちまったんだからな。でもよ、」
『!?』
雷鎚バゴスに黒い雷が走る。それを見たアルマノスは一目散にノレアに向かう。しかしその間に亜守斗が割って入った。
『そんな技、どこで!』
「驚いたか?どこで使ってもバレるだろうから、俺の頭の中で構想だけ練っていた技だよ!」
『そんな、』
「ブチ抜け、『雷獄天』!」
亜守斗が全力でバゴスを振り抜く。黒い雷が四方に分裂し、巻きつくようにアルマノスに絡み付いた。
『あ、ああ!このままでは!いや、まだ死ねません。この世界を、救わなければ。』
死を確信してなお抗おうとするアルマノスのもとに、亜守斗がゆっくりと歩み寄る。
「…もういい。」
『!…何故です。』
「何がだ。」
『…何故、泣いているのです。』
「ただお前を殺すだけだったら、どうなるかわかってるよな?光と闇は表裏一体。そのバランスが崩れたら片方が絶大な力を持つ。だからお前は俺の姉を殺そうとした。」
『…まさか貴方、自分の姉を!?』
「…………」
亜守斗は何も答えない。ただその頬から、涙がこぼれ落ちていた。
『それでは貴方は救われません。』
「…世界を守るには、それしかねえだろ。それが、」
「『姉ちゃん』の最期の願いなんだから。」
アイラの身体が重力に引っ張られ、落下していく。その思考には、今までの記憶が呼び起こされていた。
『このバール。命に変えても貴方をお守りします。』
あれだけ増やした戦力も、全て無駄になった。
『完成したぜ、アンタが城に魔力を流せば起動する。』
『まさかあの方にまた会えるなんて!嬉しいですわ!』
何故だ。勝てた筈だ。誰だ、しくじったのは。
『四人目の幹部を務めさせていただきます。波部 亜守斗です。』
「ああクソ!誰も彼も役立たずばかり!こんな筈じゃ無かったのに!」
「ゴアア!」
上方から雄叫びが聞こえる。見上げるとヴルトロスがこちらに迫っていた。胸部の魔眼は、爛々と光っている。
「ああ、魔眼越しに見ているんだろう、弟よ。」
その言葉に、魔眼が少し揺れる。
「気持ちいいか?昔喧嘩した姉の死に様を見るのは。」
思い出す。まだ幼かった弟を。まさか魔眼をすり替え私を殺しにきてるとは思わなんだ。
一体どう成長したのだろう。いや、成長はしないか。私達は属性を持った魔力の塊。無尽蔵に魔法を使えるから神としてもてはやされただけの。
その中でもグルーグ。お前は特にもてはやされてたな。だから、私と喧嘩した時も、大勢の人間がお前に味方した。
「お前さえいなければ、私は死んで無かった!」
また走馬灯が見える。いつも私の後をついてきて、「お姉ちゃん、お姉ちゃん。」と繰り返す。そんなことを思い出している間に、ヴルトロスはもう目の前で爪を振りかざしていた。
「ゴルルルルアアアアア!」
「お前さえ…!」
『グルーグ…お願い。』
「!?」
その時、記憶にない走馬灯が頭をよぎった。いや、忘れていたのかもしれない。これは…
『もし私が、また狂ったら…私を…殺して。』
「…………あ。」
そうだった。思い出した、思い出してしまった。誰よりも私を殺したかったのは。
「私自身か…私を、殺したのは。」
脱力し、力なく落ちていくアイラ。もはや虚無に近い心を持った彼女を、ヴルトロスは攻撃せずに、ただ見つめていた。そして、
「…………姉ちゃん。」
その場所から離れたところで、一人の男が泣いていた。
作中で少し言いましたが、この世界で神と呼ばれていた者たちの正体は魔力の塊です。生命の誕生にエネルギーがいる云々の話を聞いたことがあるでしょうか?神様はそのエネルギーが魔力だったバージョンです。火の神だったら火属性の魔力の塊です。それ以外の豊穣とかは人間が信仰するうちに勝手につけた象徴です。人の姿も取れますが、瀕死になるとアルマノスのように魔力の塊の見た目しか取れなくなります。自然治癒力が特別強いわけでもない上に人とは異なる身体を持つため傷の回復は容易ではありません。今回はアイラとアルマノスの二人死んだのでまとめて「神様」の解説を入れてみました。以上!龍の牙と龍の腕、第四十八話でした!




