夜風と目覚め
第二話投稿しました!ようやく戦闘シーンが書けた(短いけど)。
「いや〜、悪いね。色々手伝ってもらっちゃって。」
「いえいえ、とても良くしてもらったんで。これでも足りないくらいですよ。」
王都行きの馬車が出るのが明日だから、俺はもう一泊泊めてもらうことにした。ノレアの家は宿屋だったらしく、ノレアの両親は俺のお願いを部屋は空いているからと快く承諾してくれた。
ただ、流石に何もしないのは悪いので、俺はノレアのお父さんの手伝いをしていた。
「ところでアンタ、これからどうするんだい?」
「ノレアと一緒に王都に行きます。」
「なるほど。王都に行くためにこの街に来たんだな。んで、途中で山賊に襲われちまったってわけか。」
「いえ、行くあてがなかったのでノレアが王都に行くのに同行しようと思いまして。」
「行ってからどうするんだい?」
「ノレアが一緒に住んでいいと言っていたので、そこに住みます。」
その一言でノレアのお父さんの顔が強張った。
「いや、あのな。龍牙くん。俺はまぁ、君を悪人だと思ってるわけじゃねぇんだがな?」
「ええ、気持ちはわかります。お父さん、この際言わせてもらいます。」
俺は一拍おいてノレアのお父さんに言った。
「ノレアちゃん、不用心すぎません?」
「…」
「…」
沈黙が流れる。どうやらお父さんも認識してはいたようだ。危なっかしいにもほどがあるノレアの警戒の薄さを。
「ノレアちゃんに注意はしているんですか?」
「ああ。けど、どれだけ言っても変わんなくてな」
お父さんが肩をすくめる。あれだけ娘の警戒心が薄いと気が気でならないのだろう。
「お父さんの気持ちはわかります。ですが、俺には他に行くあてが無いんです。お願いします!ノレアちゃんと一緒に、王都に行かせてください!ノレアちゃんには絶対に酷いことはしません!」
そう言って頭を下げる。事実、他に道は無かった。
「…わかった。そこまで言うならアンタを信じよう。それに、多分ノレアには、アンタが付いていた方が良いしな。」
「何故です?」
「アイツはな、子供すぎるんだ。今日一日アンタに色々手伝ってもらってわかったが、アンタは結構大人びてる。」
「だから俺はな、アンタについていってほしいんだ。アイツを上手くサポートしてくれねぇか?」
「わかりました。大船、いや、それだと期待が大きそうだな。えーっと、そこそこ丈夫な船に乗った気でいて下さい!」
「いやそこは自信持とうよ!?」
「いや〜、そこまで自分に自信持てないですね〜。」
こうしてノレアのお父さんと談笑している間に日は落ち、あっという間に夜になった。
「夜はあんまり人はいないんだな〜。」
俺は夜の街を散歩していた。月が街を照らしているため、丁度良い薄暗さになっている。
時折夜風が優しく頬を撫でる。心地よい涼しさに包まれ俺はかなりご機嫌だった。
だが、
「…ノレア?」
路地裏にノレアの姿が見えた気がした。こんなに夜遅くに路地裏で何をやっているのだろうか。
「ンー!ンー!」
…あれ?
「ヒヒッ、ヒヒヒッ!怖いかい?お嬢ちゃん。」
よく見るとノレアは縄で縛られており、横には男が立っている。
「…」
どこからどう見てもヤバイ奴が女の子に何かしようとしてるとしか思えない。
でもどうしよう。何かしたら最悪ノレアを人質にされるかもしれない。
「…いや」
もう考えるのはやめた。とにかくノレアを救い出せばいいんだ。よし、行くぞ!
「大人しくしてくれよ〜お嬢ちゃん。あ、まず動けないっけ!ヒヒヒヒ!」
「ンンー!」
誰か!誰か助けて!気付いて!
ダッダッダッダッダッダッダッダッ
「…あ?」
「ン!」
あの服装は龍牙さん!来てくれたの!?ありがと…
ダッダッダッダッダッダッダッダッ
いや待って、助けに来てくれたのは嬉しいけど…
ダッダッダッダッダッダッダッダッ
走り方!なんか手の振り幅凄いんだけど!
その上顔が真顔なんだけど!凄い怖い!
ドガッ
「ガハッ!」
そのまま激突した!走り方のせいで凄いシュールだ…
「よし、今の内に…!」
ベリベリッ、シュルシュルシュル…
「龍牙さん、ありがと…」
「何してる!早く逃げろ!」
「テメェ、よくもやりやがったな!」
「あの屑は俺がなんとかする!早く行け!」
「…わかった。でも、絶対無事に帰ってきてね!約束よ!」
…無事に帰ってきてね、か。難しい約束だな。
「なーにが俺がなんとかする、だ。ヒーロー気取りか?ん?」
男がナイフを取り出す。相当気が立っているようだ
「いや、全然?戦う気はさらさら無い。悪いが俺も逃げさせてもらうぜ。」
「逃がすわけねえだろがぁ!」
男がナイフを構え突撃してくる。
「よっと!」
咄嗟に横に避けるも、勢いをつけすぎて壁に激突してしまう。
「もらったぁ!」
男がナイフを振りかぶる。正直避けられる気がしないが、やるしか無い!
「フッ!」
「遅いんだよ!」
流石に避けきれず、俺の左腕にナイフが突き刺さる。
「ーーッ!」
今まで経験したことのない激痛に襲われ、地面を転がる。すぐに腕を押さえたものの、血は止まりそうにない。
「はい。残念でしたぁ。」
やっぱり、人生そう上手くはいかないかぁ。ごめんな、ノレア…
「…おい、なんだよそれ!?」
は?何言ってんだこいつ。頭がおかし過ぎてとうとう幻覚でも見え始めたか?
…熱い。何だ?まるで脳が焼けるような感覚に襲われる。頭がグワングワンして、視界がボヤける。
「え。あ、アア…アグ、ア…!」
意識が吹っ飛びそうになる。脳みそが溶けてしまいそうだ。
「ヒッ!く、来るな…!」
…………そうだ、こんな奴に殺されるならいっそ俺がコイツを殺してやる。そうだ、ソレガイイ。
「…ヴアアアアア!」
「来るなああああああああああああ!」
男はナイフを向けてきたが、そんなものはどうでも良い。
殺す、殺す、こんな屑、ここで死ぬのが世のためだ!
全力の左アッパーを男に叩き込むと、男の首から上が綺麗に消し飛んだ。
…待て、左?左腕は刺されてた筈だろ?
それ以前に何で動ける?さっきまで痛くて立つことも出来なかったのに…
戻ってきた理性が今の状況を理解する。人を殺したこと。有り得ない怪力を発揮したこと。そして、
俺の左腕がまるで爬虫類のように鱗に覆われていることを。
「なんか凄い音がしたぞ!」
「こっちの路地裏からだ!」
街の人達の声が聞こえる。少なくとも今の俺を見られたら不味い。
「…逃げるしかねぇか。」
未だに現実を受け止めれていないが、そんなことは言ってられない。試しに跳躍すると、予想通りの異常な身体能力で近くの建物の屋根の上に乗れた。
「…よし!」
覚悟を決め、全力で屋根の上を駆け抜ける。とにかくここから離れる。出てきた人達が俺が誰かわからないぐらいない遠くへ。
屋根から屋根に飛び移り、夜の街を疾走する。
冷たい夜風はもう俺を癒してはくれず、ただビュウビュウと音を立て俺の耳元を通り過ぎて行くだけだった。
「龍の牙と龍の腕」第二話を読んで頂きありがとうございます!やっと主人公が戦ってくれた。瞬殺だったけど(笑)。次回も見てくれると嬉しいです!