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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔王の好物は勇者の「肉」!

 ぼくは「みかん」。頭には兜代わりの鍋をかぶり、手には鍋のふたを盾代わりに、武器はとげがついている木の枝と、お玉と、果物ナイフ。標準の布の服と、布のズボン。布の靴。これでも勇者だ。……いや、勇者一年生です。


 今も「お金持ちわっはっはスライム」を狩っているんだけど、なんだろう。とてもおいしそうに見えてきた。お腹空いているせいかな。よし決めた。

「食べる」

 ぼくは仲間にそう宣言して、適当にそこらじゅうの雑草と、仲間が倒してくれたスライムを、頭にかぶっていた鍋の中に入れて、混ぜ合わせてみる。


「ちょ、それ、食べる気ぃ?」

 仲間が止めに入った。

「うん、だって美味しそうだから食べてみる」

 こいつあほだ……、と武闘家。自他ともに認めるイケメンで、武闘家が戦えば追っかけの子らから黄色い声援が飛ぶ。

「キャー。かっこいいわー」


 混ぜ合わせていくと、だんだんとヨモギ餅のような香りになってきた。果物ナイフで少し削って、思い切ってパクリ。

「あまーい」

 勇者「みかん」の手により、スライムはヨモギ餅へと変化した。


 何も考えていない勇者みかんたち一行は、ついに魔王城へとたどり着く。そびえたつ天井を想像していた一行だったが、勇者以外は奇妙な建物に驚いていた。どこから見ても長方形なのだ。そう、魔王城という名前のオフィスビルが目の前にあったのだ。はしゃいでいる勇者だけが元気いっぱいに、仲間の制止も聞き入れずに、どんどん進む。

 ああ、ついに入り口から堂々と中へ踏み込んだ。軽やかな明るい声がかかる。

「勇者ご一行様ですね? お待ちしておりました。魔王様の元までご案内いたしますので、玄関先で固まっているお仲間の方々もこちらへおいで下さいませ」

 ――罠か? と身構える武闘家、魔法使い、僧侶の三人である。一人だけ、受付の人にお菓子をもらって喜んでいる勇者みかんが目に入ったが、スルーされた。

「こちらのエレベーターにてご案内いたします」

 ふわりと体が浮き上がる感覚に勇者をのぞく三人は、ゾクリとする。勇者みかんはというと喜んでいた。


 一方、大会議室では魔王が勢ぞろいしていた。

「いよいよですな。勇者の一行がこちらへ向かっているようです」

「我らが勇者を食べると強くなる、というのも知らずに」

「あー、ところで勇者のどの部位が、一番美味なのであろうか」

「私は腕と手が美味だと聞いております」

「私が聞いたところによると、足と太ももだと」

「私は背中が美味ですなぁ」

「腹と内臓であろう」

「いやいや、みなさん分かっていらっしゃらない。頭の中にある脳みそというのが美味だと思いますわい」

「耳はコリコリしていて美味だと聞きました」

「では、そろそろ迎え入れる準備をば」

 魔王たちは、なんと十人もいた。


「魔王様、勇者ご一行をお連れいたしましたー。ご賞味くださいませー」

「おいおい、ご賞味ってなんだよ!」

 受付が去り際に残した言葉に武闘家がくってかかる。

「あたしたちは食べ物ではありませんことよ」

 魔法使いである。

「わ、わたしたち、食べられてしまうのですか……?」

 不安顔の僧侶。


「ようこそ。我が城へ。まぁ、みなさん、そう殺気立たずに。どうぞお座りくだされ受付が残した言葉はですな、我らは勇者だけに用があるでな。失礼をした」


 勇者はどなたですかな? と魔王が言う。


「あ。ぼくのこと?」

 勇者が立ち上がる。魔王からの提案を聞く勇者みかん。

 その提案を聞いて青ざめる三人。ただ一人、勇者だけが二つ返事で返していた。

「戦って、俺が負けた後ならどうにでもすればいい」

 冷静に判断する武闘家であったが、魔王がお金の話を振ってくると急に態度を変えた。

「私も、そのときには加勢いたしますね」

 いつも控えめで泣き虫な女僧侶だ。武闘家のことを想うと、どぎまぎして目を見て話せなくなる。いつも追っかけさんたちに囲まれている武闘家に、嫉妬しながらも、かっこいい彼に惹かれている自分であった。

「ぼく、いいよ? なくなったら生き返って、手とかが生えてきて、またなくなったら生き返っての繰り返しでしょ」

 面白そう、と何も考えていない勇者の発言に、三人は頭を抱える。

「あたしは嫌ですわ。勇者だけが犠牲になるなんて、そんなのは嫌です」

 魔法使いは気が強い自分が、勇者みかんの事を思うとドキドキするのを認めたくなかった。


 そして、いよいよ勇者が魔王に料理される時間が来たのだった。


「ちょっとだけチクっとするかもしれませんが」

 そう言って魔王は注射器を取り出した。小さな注射器である。中に何かの液体が入っていた。勇者みかんは注射が超苦手だったため、逃げ惑う。注射器片手に追いかける魔王(の一人)。その後を追う仲間たち。

「ちゅ、ちゅ、注射だけはー。いやだー」

「まぁ、まぁ、そういわずに」

 ビルの中を逃げていた勇者が、ついに捕まってしまった。十字架に磔にされたかのように動けない勇者みかん。

「ささ、っと済ませますから」

 注射されて気を失う勇者を魔王の一人が、実験室のような作りの調理場へと運び入れた。勇者を助けに三人がたどり着いた時は、勇者が丸裸にされ、ローブでぐるぐる巻き、何かの油を巨大なハケで塗ったくられている。鼻につんと来る香ばしい油の香りは、香辛料を油に漬け込んだものだと分かった。ついで、塩と胡椒をまんべんなくされても、意識を取り戻さない勇者。

 巨大なフライパンの上に乗せられ、炎で温められている。

 油がはじける。じゅっ、と勇者の体を高温が襲う。そこで目を覚ました勇者。

「ぎゃー。あっつい、熱いーっ」

「あたしの勇者に何をするのよーっ」

 魔法使いが得意の氷系呪文で勇者みかんを助ける。炎が凍りつけにされ、そばにいた魔王もカチンコチンと動きを止めている。そのついでに勇者みかんも凍りかけていた。

「さぁ、逃げるわよっ」


 勇者みかんはこの時思った。意識がもうろうとしていた時に聞こえた、彼女の声。「()()()()()()」というフレーズに顔が真っ赤になるのを抑えきれなかった。とても恥ずかしくなる。 

 

 一方、魔法使いも、あの言葉を叫んだ時にはっきりと自覚した。

「あたし……、勇者みかんが好きかも」

 


<終わり>

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