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モヒカンと太陽の精

「クマ、ひどくなってね?」


 登校して真っ先に、モヒカンにそう言われた。


「そうかな」

「ああ、見間違いや気のせいじゃあねえよ、オウちゃん。ちょっとやべえ感があるぜ」


 ちょっとやべえ感か。やばさの指標としてはまだ大丈夫っぽい。


「最近寝起きが悪いんだ。なんてーか、眠った気がしない」

「寝てねえんじゃね? 寝てると思ってるけど実は、的な」

「寝てるはずだがなー。ちょっと寝る前に本読んでるだけだし」


 この頃はずっと、ずっとずっと寝る前にずっとモルスの初恋を読んでいる。するといつの間にやら寝落ちしている。朝を迎えている。あの本の睡眠導入効果すごい。おかげでまぁだ俺は読み終わらない。読み終わらない読み終わらない。


「オウちゃんって本とか読むタイプだったんか。漫画?」

「いや、小説」

「ほえー、どんなタイトルよ?」

「モルスの初恋」

「しらねえ」

「だろうな。でもその作者って夕陽ヶ丘市出身らしいぞ」

「マジでか。名前なんてーのよ」

「水代永命」

「おー……」

「聞いたことある?」

「ちょい待ち。待てよ……あー、なんかテレビのバラエティ番組で見たような見なかったような……クイズ番組だったか? いや、違う。なんか、中年だろ? 眼鏡の中年」

「そうそう」

「なんっかで見たんだよなー……ちらっとだっただろうから憶えてねえや。たぶん本の宣伝とかだっただろうし。そもそもテレビで見たのかも怪しいわ。ネットニュースとかだったかもしんね」


 携帯を取り出し、モヒカンは何かを検索し始める。すると自然、モヒカンの携帯の裏側に貼られているステッカーの銃口が俺を向くことになる。

 銃を真正面に構えた暑そうな表情の男性のステッカー。太陽の精、という名前の、ここ夕陽ヶ丘市のマスコットキャラクターである。知名度はやや低く、人気はない。もう一度言う、人気はない。どういう経緯で製作と販売に至ったのか不思議なほどに人気がない。だというのにその歴史は中々に長い。なんとまあ、俺の年齢よりもあるのである。俺たちが産まれる前にはもう、太陽の精はあったのだという驚きの事実をお持ちだ。


「なあ、モヒ」

「おお?」

「太陽の精、だっけか。それってそんなに良いものなのか」

「あー……まあ、オウちゃんには分からねえかもなあ、この良さはよお。ま、つっても俺もさ、父ちゃんの姉ちゃんの旦那さん……うちのじいちゃんといっしょのとこで働いてる警察官の旦那さんがいるんだけどよ、その人がなんかこれのマニアで、その影響を受けただけなんだがな」

「マジかよ。物好きもいたもんだな」

「まー、分かる人は分かるんだよなぁ、この良さは。なんつーか、アレがアレでアレなわけでアレなんだよ」

「要するに?」

「俺も分かんねえってこと。お、あったあった。水代永命、職業は小説家。ウィキペディアの記事もあるぜ」


 ほら、とモヒカンが携帯の画面を見せる。なにやら何処かの会場に登壇する眼鏡の中年男性の姿が映されている画像だった。なにかの授賞式、だろうか。


「また何かの番組に出んじゃねえの?」 

「だな。そんときはちょっと見てみる」


 その時突然、唐突に。


「おっはよーお二方っ」


 肩に勢いよく手を置かれ、びくんっとなった。モヒカンも同様に驚いている。


「なになにどしたの何の話?」


 諏訪さんだった。金色の長髪は、いつものように二つ結びのお下げではなく、左右に流している。


「お、び、びびったわぁ。スホーさんだったのかよ」

「あははっ、ごめんねモヒくん。びっくりさせちゃった」


 てへへ、と笑う諏訪さんは天真爛漫そのものだった。


「クノキくんも、ごめんねーっ☆」

「あ、ああ……」


 きゃひひっ、と諏訪さんが笑う。今日の彼女はとにかく上機嫌であるらしい。笑みに笑みをひた重ねている。


「それでそれでクノキくん、読み終わった感じ?」

「読み終わってない感じ」

「えーーーーー?」

 

 眉をひそめ、諏訪さんは拗ねたように口を尖らせた。


「なんか名前呼ばれてるみてぇで落ち着かねえわ」


 ぽつと、そんなモヒカンの呟きが聞こえた。


「早く読み終わってよー、感想を共有しよーよー。ねーったらー。そしたら良いお話を聞かせたげるからー」

 

 駄々をこねるような言い方で、諏訪さんが俺の制服の袖を両手でちょこんと掴み、上目遣いで見上げてくる。殺人的だ。可愛らしいという意味合いでの。


「わ、分かった、分かったからっ」

「よっしゃきた。なら期待してるからっ」


 そんなこんなでチャイムは鳴り、カンナヅキ先生が教室へ入ってきて、朝のホームルームが始まった。

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