『読書モ読ルスの書読書初恋読』書
読。
28節。
29節。
「犯人探しに付き合ってくれない?」
放課後、突然の遠泉早紀からの申し出に、桜花は目を丸くした。
殺人とはかくも罪深い行為なのだ。易々とピクニック感覚で行うものでは決して決してないのである。ならばどのような感覚で行われるものなのだろうか。遠征ぐらいの感覚か。
「……真理先輩の仇討ちだよ」
殺された佐藤真理の仇討ち。つまり殺すということだ。これは比喩ではなく、早紀は本気でそう考えている。長く見れば恐怖と抑圧と悲愴と憤怒が入り混じった一時的な殺意なのであろうが、現在殺意があるのは確かなのである。殺したいほど憎んでいる。すれば彼女の抵抗が一番強いのだろうか。
30節。
「とりあえず現場に行ってみるっきゃねえかなって」
「森んところの広場にか」
条理桜花はまだ死なないというだけのこと。やがて死ぬ。いずれ死ぬ。あるいはもう──死んでいる? いつの場面で、桜花は死ぬのか。
31節。
異質。語りが少し違う。どうでもいいことに変わりはない。不毛な文章と言う評価は、まさしくその通り。
32節。
33節。
「なあ──死人が動き出したりすることってあると思うか?」
死人ならば死んでいないといけない。
33節。
34節。
「廃墟の方、行ってみないか」
そうして二人は、未明ヶ丘の森の奥へ続く小路の中へ入って行った。
35節。
「うん。確か……穂乃果と、条理と、三宅、 のヨ人だったって聞いた。そのときの探検隊のメンバーは」
不自然な空白。3人。三人。ヨ人。四人。どっちだ。
「条理。もうすぐだ。ここを左に曲がれば着くんだろ」
彼らの目の前には曲道があった。
まっすぐ進む小さな道と、左に曲がって木々の中に入っていく更に小さな道。後者に至ってはもはや舗装すらされておらず、砂利道だ。かろうじて電灯だけが生きている。
『パトリア』という文字書かれたピンクの看板が、曲がり角の端っこに黒く泥土に汚れた状態で、木々に呑み込まれてひっそりとあった。パトリア。故郷。死の故郷、である。
「行くか」
「ああ。良い肝試しだよ、まったく」
桜花達は曲がり角を左に曲がり、砂利道を進む。
すぐに、それは見えてきた。
36節。
「なあ、中に入ってみないか?」
「あ、やべ」
何かに思い至ったのか、早紀がしまったという表情を浮かべた。
「どうした?」
「私たち鞄を忘れてきてない?」
「あ……」
桜花もすっかり忘れていた。
自分達の鞄、楠の根元に置いたままだった。
「ま、いいか。帰りにとりゃさ」
「そうだな。帰りは忘れないようにしないと」
帰りに取ろうとする。なんだか忘れそうだな、こいつら。
37節。
38節。
すらりと伸びた白い手。今の死には無いものだ。
しなやかで綺麗なくびれを持った胴体。今の死には無いものだ。
小ぶりな胸。……あれは要らない。
余計な脂肪のない、けれど肉付きは良い脚。今の死には無いものだ。
両腕、胴体、両脚。必要な部位。
あれがあれば、身体が出来上がる。完成する。
39節。
40節。
41節。
欲しい。あの身体が欲しい。
そうすれば身体が出来上がる。完成する。
もう怖がることなく、怯えられることなく、自信をもって『私』を彼の目の前に持って行けるのだ。
42節。
楠の根元には鞄が二つあった。
どうなることだろう。
そう考えつつ、死は楠の根元に佇んでいた。
ほぉら、やっぱり忘れた。
43節。
「鞄忘れた……」
どれだけコールを重ねても、早紀は電話に出なかった。
まさか、と考えていた。
最悪の想像が、桜花の脳裏で渦巻いていた。
そしてその想像は──大当たり。
鞄を取りに一人で戻り、遠泉早紀は殺される。
44節。
45節。
早紀は家にたどり着き、今更のように鞄の不在に気付いた。
「ちょっと行ってくるかな……条理のやつも、忘れてるだろうし」
「……ま、持って行ってやるのもアリだし」
そんなことを早紀は考えた。自分がさっと鞄を取りに行き、二人分の鞄を取って、その足で桜花の家まで向かい、渡す。これで条理桜花の家を訪ねる口実ができたというものである。
(あれは……)
楠の根元に佇む影を見た早紀の最初の反応は、沈黙だった。
理解を外れた存在を目の当たりにしたショックで口をつぐんだ──訳ではなく、冷静な判断を直感的に頭が下した故の、束の間の沈黙だった。
見た瞬間、早紀は理解したのである。
こいつが人殺しの犯人だ、と。
理解したとて、さっさと逃げれば良かったものを。
怒りを抱く彼女はきっと、向かってくるだろう。そして殺される。
46節。
47節。
死は少女の細い首を断った。ごぼりと、心臓が止まって勢いを失った血が押し出されてくる。そして、右腕、右脚、左腕、左脚を切断した。断面図は綺麗なもので、赤と黄色と白の断面が鮮やかなものである。その後は不要な小ぶりな胸を切り取り、胸部とお腹と下腹部の揃った胴体のみを残す。
要らない部分である生首と胸を楠の根元にそっと置く。制服もきちんと畳んで、その傍に置いた。
「かんせーだわ。これで、私は、人間なのね」
死は完全な人の身体を手に入れた。
48節。
49節。
楠の根元にあったのは。
生首。
あとは円状をしていて、中央だけ色が違う潰れた肌色のものが二つ。
その傍には制服が一式きちんと畳まれて置いてあり、上側だけの下着がその上にぽんと置いてあった。あるものといえば、それだけだった。
胴体が無く。
右腕が無く左腕も無く。
左脚が無く右脚も無かった。
残っているのは生首と……おそらくは胸の部分だけ。
50節。
警察がすぐにやってくる。
「死体を見たんだ、きみは。カウンセリン
グをする必要もある。こちらから手配し、日程等は連絡するよ」「ありがとうございます」
「訪諏れたいような光景だったのだろうがね、せめて緩和をしないと……先日のも、今夜も」「
亡心れたい……アハハ、そんなすぐには
忘れられそうにないですよ」
「留まり続けるものだからな……死体を見た記憶というのは」
「亡くなった人を見る機会って、あまりないですもんね……」
……改行ミス? 誤字もある。訪ナントカれたいって、なんて読むんだよ。亡心れたいもだ。繋がるとそれっぽい漢字になるが、ワザとか?
いや、これは……縦、か。「グ「亡忘「「。死を訪心れ留亡。体す諏れらまく。をるれたれりな。見必たいそ続っ。……なんじゃこりゃ。ただのミスか。
「いやっほー!」
「ぬん!?」
どん、と肩を叩かれ奇声を上げてしまった。
「あははははっ! 『ぬん!?』って! なんでそんな声上げちゃったのよアンタ!」
「お、驚くに決まってるだろ! 本読んで考え事してるときに背中叩かれたら誰だって『ぬん!?』するわ!」
爆笑している玲那へ、文句を言う。
「いやーごめんね、ごめんごめん、真剣に読んでるとからかいたくなる性分なんだ私」
「なんてイヤな性分なんだ…」
「はははっ。真面目に読んでるんだねー、なんならこの諏訪玲那さんもいっしょに横で読んだげよっか?」
「いや、結構です」
「えー? なんでー」
ぶー、と玲那が眉をひそめていた。