表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
154/265

警察がやってきた

 十分も経っていなかった頃だろうか。

 遠くで聞こえ始めたサイレンの音が、段々と近づいてきて、家のすぐ傍で止まった。誰が来たのかは瞭然だった。呼んだのは俺なのだから。

 インターホンが家の中に鳴り響いた。

 リビングには俺たち四人、身を寄せ合っている。不安げに目配せをする陽香に「俺が出るよ」と言い、立ち上がり、玄関へ向かった。


「……こんばんは。やはり、きみだったな」


 玄関ドアを開けると、険しい顔で一人の男性が立っていた。

 見覚えのある顔。茂皮さんだ。その奥、道路に停車しているのはいつものパトカーではなかった。ごく一般的な車輛だ。違うとすれば、赤色灯を乗っけているぐらい。


「何台かは、既に広場公園の方へ向かっている」


 短くそう言うと、茂皮さんは「つらいとは思うが……ご同行願えるだろうか。事情も聞かなければならない」と訊ねてきた。


「分かりました」


 分かってはいたことだ。

 

「親御さんには私の方から言おうか」

「父と母は今、海外に滞在中です」

「そうだったのか……。では、きみは今この家に一人で生活を?」

「妹が一人いるので、いっしょに」


 久之木舞。彼女は俺の妹……家族なんだ。


「そうか……」

「妹にひとこと言ってきてもいいですか」

「構わないが……そうだな、その間、人を誰かここに居させることもできる。きみの妹ということは、きみよりも年齢は幼いのだろう。危険だよ」

「それは……」


 俺が答える前にはもう、茂皮さんはアンテナがピンと立った黒色の機械──携帯無線機、というのだろうソレに向かって言葉を発し始めた。「椎尾を頼む。まだ刺激が強い。執念で動いているのだろうが、まだ娘さんの葬儀も終わっていない」「ああ。無理を言ってでも休ませないとな。本人の意見がどうだろうと、だ」無線機の向こうの誰かと、小声でそんな会話をしていた。


「……二人、来る。椎尾と薄井。二人とも女性だ。きみの妹さんも、その方が良いだろう」

「あの」

「なんだ?」

「実はあと二人、友人が遊びに来ていまして」

「ほう。まあ、構わないだろう。子どもだけでいるよりも、大人がいた方がより安全だよ」

「ありがとうございます。ちょっと、事情だけ伝えてきていいですか」

「行ってきなさい。私は先に車に乗っているよ──心配も、されているようだからね」


 安心させるように茂皮さんは微笑むと、くるりと踵を返し、車の方へと歩いて行った。

 俺もまた身体の向きを反転させヂ る。すると玄関扉が少し開いていて、隙間から黒い影が覗き込んでいて、玄関扉の下側には血だまりができていた。ヂヂ。


「夕陽か……」


 玄関扉の隙間から覗いていたのは夕陽だった。切れ長の目が不安げだ。


「ごめんなさい。つい」


 隙間から俺を覗いている状態のまま、夕陽が謝った。

 

「珍しいな。そういうのはてっきり陽香がするもんだと思ってた」

「未知戸さんなら私の横にいるわ。順番順番で見てたの」

「ハハハ……そっか」


 そして玄関ドアが開き切り、夕陽と、そして陽香の姿が現われた。


「話は聞いてただろ。椎尾さんと薄井さんっていう婦警の方が来るらしいから」

「分かったわ……けど、オーリは大丈夫なの?」

「俺は大丈夫だよ。なら、行ってくる」

 

 会話を断ち切るように片手を挙げて車の方を向き、さっさと歩き出す。そのまま茂皮さんの指す通り車の助手席を開け、乗った。茂皮さんは微笑みながら夕陽と陽香に会釈していた。

 そして車は動き出した。向かうは、惨殺死体のある場所だ。


「きみはモテるみたいだな」


 からかう様な調子の言葉に、俺は苦笑いで応えた。恐怖する者が三人、身を寄せ合っているに過ぎないのに。

 その後は無言の時間が続いた。茂皮さんは真剣な表情でハンドルを握っていた。


「……」


 言ってしまおうか、と思っていた。

 写真の件、ハンカチの件について。あとは廃墟で見た血濡れの鉈、足音、確実に誰かがいたという事実。すべて、この警察官に言ってしまえば……。


「お」


 チカチカと、前方から赤色灯の明かりが近づく。パトカーだ。

 すれ違い様、茂皮さんが片手を挙げた。


「今のが椎尾たちだ」


 通り過ぎた後、茂皮さんがぽつりとそう言った。


「もうすぐ、着くな」


 言うタイミングを逃したまま、車は広場公園の入り口近くに着いた。エンジンを切り、茂皮さんが俺の方を向き、心配そうな声色で、


「……どうする? 無理そうなら、車の中にいてくれてもいい」


 訊ねる茂皮さんへ、


「大丈夫です。平気です、俺は……」


 そう答え、頷いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ