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学校を出た

 休校と決まり、教室内は迎えを待つ生徒たちで少々ざわついている。


「とりあえず集合場所を決めとくとする」


 そう言ったのは近泉である。

 近泉と陽香と夕陽と俺の四人。俺の机を中心として、集っている。


「通りは商店街を抜ける道が一番近かったと思うから、商店街の入り口のアーチんところでいい?」


 提案したのも近泉である。


「異議なし。そうしましょ。時間はどうする?」

「できればすぐがいいな。陽香に一乃下さん、ついでに久之木が大丈夫なら、だけど」

「へーきよへーき。ユーヒもついでのオーリもへーきでしょ?」

「私は大丈夫だけど……」

「ああ俺も。ついでだが平気だ」


 根に持つなよなぁ、と近泉はアハハと快活に笑った。

 ということであっさりと集合場所と時間が決まり、一先ずの解散となった。近泉は親が迎えに来てくれるらしく、「乗せてこっか?」という有難い言葉には、俺たちは首を横に振って遠慮しておいた。

 生徒だけでは帰宅できない。俺と夕陽と陽香は、やはり霜月先生に送ってもらうことにした。


「オーちゃん達どっか行くん?」


 集まって会話していたところを見ていたのだろう、レモンに問いかけられる。


「探偵に会いに行く」

「マジかよ、なんかおもしろそうだな」

「来るか?」

「ああ。行くぜ。帰ってもヒマするだけだったしな」


 すんなりと同行者が一人増えた。

 近泉はもう帰ってしまったが、まあ会ったときにレモンも同行することを話せばあっさりと了承してくれるだろう。彼女はさばさばとしており、明け透けな性格なのだから。


「大丈夫なの? レモン、あなた怖がりでしょ? 通り魔が出歩く街中を歩ける? 泣いちゃわない? あなたの泣き顔を見ても私はちっともときめかないわ」


 陽香の煽りに、レモンは「はっ。俺をなめんじゃねえぜ」と意気揚々と言い返し「まあ少し怖いのも否定できないがな!」と付言した。正直者だなあってなった。


「これで五人ね。五人もいれば、誰も手を出そうなんて思わないわ」


 夕陽が言う。


「早合点というものよ、ユーヒ。相手も五人いたらどうするの?」


 複数犯の可能性。

 陽香はきっと何も考えずに口に出したのだろうが、今まで考えもしていなかった可能性の一つを不意に出された気分だった。一人ではなく、二人以上。複数人の存在の気配。確かに、一人だと断定できる根拠はなかった。否定できる材料もなかったため、一人だと思い込んでいただけだ。


「五人もいるなんて、考えたくもないわ……」


 残虐性を秘めた人間。殺人を実行するのみならず、死体に対して更なる辱めを行える精神性の持ち主が、五人とまではいかずとも二人以上存在する。悪夢はより悪夢めいてくる。考えたくないという夕陽の言葉に、俺は頷き同意を示した。


「一人であってほしいな」

「まったくだわ。私もそう思う、自分で言っといてなんだけどね」

 

 陽香も俺たちと同じ心境で、レモンも「五人とかフェアじゃねえわ」と強く頷いていた。


「ところで、レモンは帰りどうするんだ?」

「おお? 俺? 俺はー……母ちゃん来てくれっかな」


 ぽりぽりとモヒカンの部分を掻きつつレモンは言う。


「霜月先生の車って、五人までは乗れるでしょ。レモンも乗せてもらったらいいじゃない」

「あーそうしてもらおっかなぁ……」


 俺たちが会話している間にも、クラスメイトは次々と帰宅し続けていた。

 教室から人がどんどんどんどん捌けていき、残っているのは、


「はははっ。やっぱり定番の面子だなぁ。っと、今日は三択もいるのか」


 教壇のところから、霜月先生が俺たちにそう言った。先生も少し元気を取り戻したのか、さっきよりかはずっと声が明るかった。


「すんません、先生。俺もお願いします」


 レモンがぺこりと頭を下げる。


「もちろん、いいぞ。──さ、それなら早めに出るか」


 そうして、俺たちは霜月先生の後について、駐車場まで出た。前を歩く霜月先生に、俺たち四人がついていくような形となった。


「順番はどうするかな、未知戸と久之木は家が近いから最後として、最初に三択、次に一乃下になるかな」


 送り届ける順番を、霜月先生が口に出す。

 夕陽が俺に何かを言おうと口を開きかけたが、そっと手で制した。彼女の言わんとすることは分かった。夕陽は今、久之木家に泊まっている。けれどそれを霜月先生に伝えるのも憚られる。伝えてしまったら、理由も云う必要が出てくる。先生に要らぬ心配をかけて、事態が拗れそうな予感がする。

 

「──迎えに行く」


 夕陽に小さく、そう伝えた。

 彼女は一瞬目を丸く驚いた風だったものの、すぐに微笑み、「うん。待ってる」との返事。すると、腕を引っ張られる感触。見ると陽香が、不貞腐れた表情を浮かべていた。


「私もついていくから」


 と言う陽香は、否定など求めないとばかりにすぐに俺の腕をぐいと引っ張る。


「お、おい……」

「さっさと行くわよ」


 先を促され、振り払うまでもなかったので、そのまま俺は連れて行かれるままに引っ張られた。レモンと夕陽との距離が、少し離れた。


「陽香の愛の深さってやっぱやべえわ」


 と、レモンが口に出し、「本当にね」と夕陽が微笑むのが見えた。

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