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『モルスの初恋読』書読書

 読み進める。

 何ページまで読んだか憶えてないから、また最初からだ。


 献辞。誰かから誰かへ向けての。

 序はない。

 一章が始まる。


     0節。もう一度。

 

「一人足りない。」

「思い出して。」

「忘れないで。」


 忘れないでという言葉。

 忘れられた者の言葉。


     1節。


 死というものが、ひとりの生者──条理桜花──に恋をした。

 最初の出会いは、森の中、崩れかけの廃墟にて。あの森だ。メメント森の。パトリアという名の。ラブホテルの廃墟。幼馴染二人。同じ年頃であろう少年と少女が一人ずつ。幼馴染二人の行動は、そのまま少年の命を救う。


 だから、くたばり損なったんだ。


     2節。


 くたばりゾコナイの桜花。

 

 死という者が、一人の生者に恋をする。


     3節。


 幼馴染の少女──道戸穂乃果。

 傷が残ろうとも、それは後頭部で、目立つことはまずないのだから。


     4節。死。


 でも、どうしたら私を見てくれるのだろう?


     5節。


 大きな交差点。何処だろう?

 なにかが横たわっていた。赤色の液体が、その横たわるなにかの周囲を満たしていた。


     6節。

     7節。


 クラスメイトの女子が一人──小瀬おぜ静葉しずは


     8節。

     9節。


「転入生って、パンをくわえてやってくるものなんだって!」

「そうなんだ。なんか慌ただしいね」

「そ、あわただしーの。きゃー、遅刻しちゃうーってなってて、それで結ばれる運命の人にタックルしてくるって話だよ、とーとつに! なんだかロマンチックだよねっ」

 その愛情の深さは、あまりに不快。


 憎しみがすごいな。この……これを書いた人物は。


「おっすー!」


 どん、と背中を叩かれ、俺は我に返った。


「すっごい集中力だったねー、アンタ。名前呼んでも全然反応しないんだもの。シカトされてるのかなーって悲しくなったもの」

「あ、ああいや、それは悪かった」


 此処は何処だ。

 周囲を見る。書架が並んでいる。机がある。制服姿。俺も、制服。ということは学校。学校の図書館。俺は学校の図書館に平日の昼休みにいる。そういうことになる。

 目の前の金髪……玲那は俺の耳元にそっと口を近づけ、内緒話でもするかのようにこっそりと、


「"彼女"を無視したりしちゃったらダメでしょ」


 と言う。彼女、と言う単語が心なしか強調されているように感じた。

 そうか、俺は、この諏訪玲那と一時的ではあるが恋人のような関係にあるのだ。そういえばそうだった。


「悪かったって」


 改めて言われると、照れくさくもある。


「うんうん。しっかりと読んでるみたいね、感心感心」


 椅子に座る俺の目の前に広げられている本──『モルスの初恋』を認めると、玲那は満足げに二度頷く。


「でもさぁ、クノキくん──そんなに私とシたいのぉ?」


 さっきよりもずっと近く、吐息がかかるほどの距離で、ねっとりと絡みついてくるような声音で玲那が言う。したい、という言葉が何を指すのかは分かっている。


「……そういうわけじゃ、ない」


 そういうわけでもあるにはあったが、素直に認めるのもアレだったのでとりあえず否定だけはしておいた。


「ま、準備はしておくからね──すけべさんっ」


 えひひっ、といういつものヘンな笑みを残して、諏訪さんは図書室を出て行った。


「……準備ってなんだ」


 準備ってなんだろう。本当に分からない。アレな意味での準備だろうか。いやらしい意味での……いやでも、いやらしい意味だとしても準備って何なのか具体的なものが浮かんでこない。準備ってなんだ。本当に何だ。

 ……毛を整えたり、とかか? 

 ああくそ、眠い。眠いな。まともに考えがまとまらない。とりあえずはこれを、読み進めるべきか。べきだな。

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