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『モルスの初恋』
序 三つの初恋
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斯くして緞帳は上げられた。
1
確かに叶ったはずの初恋は無に帰した。
2
確かに在ったはずの初恋は消え失せた。
3
確かに途絶えたはずの初恋は、再開された。
4
全ては彼女の運命への執着により。
全ては彼女の忘却への絶望により。
全ては彼女の落涙のない痛哭により。
三者の願いは混迷し、全きものであったはずの条理を狂わせ、生者は死者であることを忘れる。死者が生者であることに疑いもせず、過ごしたはずの日を、過去と化した日常を歩む。
それはそれは筋道立たぬ、なんと気狂いめいた日々であろうか。
嗚呼、これを不条理と呼ばずして。