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魔法使いの最強の弟子  作者: なつみかん
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1.魔法使いの弟子


薄い蝋燭の明かりが床に光の輪を作る。その薄明りを頼りに少年は老人が待つ部屋を探していた。

少年の足元を静かにに照らす光の輪は一枚の扉をおぼろげに照らす。


少年は少しためらうようにノックをする。  返事が返ってこない。

もう一度、今度は意を決したように強く、三回ノックをする。


「ああ、入ってもよいぞ」


少年の耳に聞き覚えがある声が届く。優しく、それでいて力強い声。少年はその声のに従い、ゆっくりとドアを開ける。


「師匠、ゼニスの根、持ってきました」


少年の持つ燭台とは逆の手に、何やら植物の根のようなものが入っている籠がぶら下がっている。

紫色をした植物の根のようなものは時折うごめき、知識のないものがみれば生きていると思うだろう。


「ああ、すまない。そこの魔導書の隣に置いといておくれ」


老人のさした指の先には今にも崩れ落ちそうなほどに積まれた本の山があった。

少年はあたりを見渡すと、老人がいる部屋の散らかり具合が目に入ってくる。


床には少年にはまだ理解できないような言語で形どられた図形らしきものに加え、

部屋の中なのに床が焦げた跡が何か所かある。


部屋のいくつかの棚にはしなびた植物のようなものが所狭しと置いてあるが、

中にはホコリがかぶっているものも見える。


壁には何かの生き物の生態を現した図のようなものが貼ってあるが、

その大部分を別の図形が書いてある紙に覆われており、

何が書いてあるのか少年にはわからなかった。


机の上には何やら本以外にも機械のようなものが自分の場所を主張するかのように散らかって置いてある。

理科の実験で使うような液体が入ったガラスでできた器具や、

少しくすんだ黄金色の歯車が何重にも重なってできた精密そうな機械が何個か見え、

すべて最近使ったであろう跡が見える。


「師匠、お部屋にこもって研究を続けていらっしゃるのは構いませんが、少しかたずけをなされたらどうですか?」


「ん?ああ、そうだな.....おお、これは...」


老人はいかにも聞いていないような返事をする。

どうやら目の前の魔法的化学反応に興味をすべて持っていかれたらしい。


「師匠?聞いておられますか?」


今度は老人の耳元で聞こえるように言葉を放つ。


「ん?どうしたアレン?」


老人は深くかぶった自分の青紫色のフードをとり、キラキラと光る白髪と髭をだして、少年に振り替えった。


老人の名前はブラージウス = リーバー。 ニーブリグン王国では随一の魔法使いだが、

15年前に起こった戦争で孤児の赤子を拾ってからは隠居生活をおくっており、

日夜魔法とその深淵なる知識の探究に明け暮れている老人である。


「師匠、魔法の研究をなされておられるのは大変尊敬しますがあまりにも長いこと引きこもられますとお体に触りますよ。」


少年はこれで何度目になるのかという説教を師匠にしながら、籠を机の上に置き、机の整理を始める。


「ああ、すまないなあアレン。その本は柏の棚の6段目においてもらえるかの?あとパルスベリーを一房持ってきてもらえるかな?」


老人は少年のを一切見ず、自分の手元で起こる魔法反応を見つめながら少年に指示を出す。


老人が見つめる先では五芒星が書かれている板のようなものが置かれていて、

五芒星のそれぞれの先端部分がへこんでおり、そこに薬草などが配置されている。

そして老人は慣れた手つきで決まった順で五芒星の中心に置かれたフラスコのようなものに材料を入れていくと、

中の液体の色が薄緑色から鮮やかな黄色に変化していた。


「わかりました、師匠。......今回は何の薬液(ポーション)ですか?」


少年は老人のわきに頼まれた薬草を置くと、老人の手元にある黄色をした液体を見つめて言った。


「まあ見ていなさい」


老人は慎重な手つきで少年が置いた薬草から葉っぱを一枚とり、液体の中に落とす。

黄色い絵の具のような水に葉が落ち、水面に浮かぼうとしたその瞬間、老人が何かをつぶやく、

それと同時に液体が激しく沸騰し始めた。

黄色い泡がいくつも上がったかと思うと、その泡はまるで血のような真っ赤な真紅に変化していき、

やがて沸騰は収まった。


「うむ。中々の出来じゃ」


老人は液体を(治癒-Lv.5-)と書かれたラベルが貼ってある瓶に入れ、それを棚にしまい込む。

どうやら治癒の薬液だったらしい。


少年はそれを尊敬のまなざしで見つめて、老人に対しての称賛の声をかける。


「さすが師匠。完璧な調合ですね!」


「この品質ならば高い値段で買い取ってもらえるだろう。明日の買い出しの時に他の薬品と一緒に売りだすといい」


老人はそういうと、思い出したかのような顔つきで少年に問いかける。


「そういえば、今日は何日じゃったかの?」


「霧の月の15ですよ師匠。」


少年は、整理の続きをしながら答える。


「もうそんな時期か...長いこと籠って生活すると季節もわからなくなる時があるから困るのう...しかしもう...そんな時期か...」


老人はそういうと机の引き出しの中から鍵を出して、少年に声をかける。


「そろそろ時期じゃろう...アレンよ、ついてきなさい」


そういうと老人はせっせと部屋からでて、どこかに向かってしまった。


「師匠、いったいどこに向かっておられるのですか?」


少年は老人に問いかける。今まで15年間、師と一緒に暮らしてきたが、こんなことは1度もなかった。

長い廊下をわたりながら老人は少年に対して口を開く。


「お前ももう15じゃろう。適性もあることじゃし、そろそろ魔法の深淵を覗く時期じゃ」


「深淵...ですか?」


深淵、それは通常の世界とは異なる次元の通称のこと。

少年たちが住む世界は蓄積されているマナが少なく、魔法使いと呼ばれる職に就く者たちは

この「深淵」からマナと呼ばれるエネルギーを吸収し、自らの力に変換することで魔法を操る。

そして、その力は深淵を覗くことで手に入るのだ。


しかし、「深淵」はすべてのものが覗けるわけではない。

魔法に対して適性を持つものしか覗くことはできないのである。

この魔法に対する適正は生まれつき持っているものがほとんどであるが、

中には成長すると適性を持つ者もいる。しかし、適性を持っているにもかかわらず深淵を覗かないものもいる。それは「深淵の代償」と呼ばれる代償が存在するからである。


「深淵の代償のことは前にも話したな?」


「はい。深淵の代償を受けたものは何もしなければ普通のひとより短命になります。また、その身に流れるマナが尽きると死んでしまいます。そして、知識への探究心をなくすと、深淵に...取り込まれます」


少年は師から教わった知識を自分に言い聞かせるように言った。


「そうじゃ。短命になってしまうのは延命する手段が魔法で確立されてからは大丈夫になったが、それでもいまだに代償は大きい。多くの魔法使いが慢心と油断でこの世を去っていった。

 わしはお前にその道を強制はさせん。お前の人生はお前のものじゃからな」


老人は少年の目を見ると優しい口調でそういい、少年の返事を待った。


しかし、少年の決意は変わらなかった。


「いいえ師匠!僕は師匠に助けられました。師匠という魔法使いのおかげで今の僕が生きているんです。だから今度は僕が、僕が魔法使いになって多くの人を救うんです!」


老人は少年の言葉から熱い決意を感じた。拾ったときはまだ幼い赤子だったのに...これが親心というやつなのか...老人はそう思うと長く使っていなかった儀式用の部屋のカギを開け、中に入る。


「そうか、アレンよ。そう言ってもらえてうれしいよ。ならば準備をしなければ、そこで動かずに待っていなさい」


老人は少年に対してそういうと、何やら呪文のようなものをつぶやき始める。少年には理解できそうにない言語で作られたその言葉の波は、部屋の空気に変化をもたらし始める。


寒気が少年を襲った。部屋の温度が急激に下がり始める。窓に霜ができ、少年の吐く息は白く染まる。

部屋の中央、老人の足元から何やら文字のようなものが浮かび上がり、文字一つ一つが輝き始まる。その白い小さな光は、やがて床に六芒星を描いた。


少年はもう寒さを感じていなかった。いや、寒さを感じていたことすら彼の脳内からかき消されていた。少年の脳は、目の前の光景を理解するのに必死になっていた。


老人の前に本来あるべきである空間は、何やら黒い光に包まれている。その鈍い光を放つ物は、やがて門のようなものに形を変える。


これが「深淵」である。本来の世界ではない。別の世界との間に生まれる障壁。その黒い光の向こうには、吸い込まれそうな暗黒が広がっている。


「踏み入れなさい。アレン = ウェイサイト。そなたに深淵の断片を授ける。」


先ほどの優しい声と同じとは思えないような重々しい声が老人の口から流れ出し、少年の頭に響く。


少年の体は、少年が考える前に動いていた。まるで水の流れに身を任せるように、風になびくかのように、少年の心とは裏腹に足が進む。


少年の目の前に、途方もないような闇が広がり、少年を飲み込んだ。


ご覧くださりありがとうございました。

主人公が無双するのは次回からです(ネタばれ)


初投稿ですが温かい目で見守っていただけると幸いです。

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