ひとりじゃない
下駄箱に向かうと先輩の姿はもうなかった。
キーンコーンカーンコーン♪
おっと10分前の予鈴だ…あまりゆっくりしてるほど余裕はない。
昨日の入学式、退屈で眠かったけど、教室の場所くらいは覚えてる。
1年生の教室は下駄箱から少し遠い。校舎が王の字になっていて北側から1年棟2年棟3年棟だから、あの先輩とはあまり会う機会がなさそうだ。
教室に入るとほとんどの席が埋まっていた。流石に初日から遅刻してくるやつはいない。
キーンコーンカーンコーン♪
チャイムの音と共に前の扉から教師が入って…いや後ろの扉も開いた。
それもかなりの勢いで。
扉のところにはヘルメットを被った人がいた。
その勢いのまま席についた。それを見ていた教師に、元から座ってましたけど?のような態度をとっているが…
「とりあえずヘルメットを脱ぎなさい」
教師から言われて、あっ…と声を上げた。どうやら気づいていなかったようだ。
「ギリギリ間に合ったから遅刻にはしないが、余裕を持って登校しなさい。特に二輪は大きな事故に繋がりやすのですから」
「はい…気をつけます…」
と落ち込んだような声でその女子が返事した。
あれ?初日からバイクなのって俺以外にもいるの?しかも女で?
これは…後で話しかけてみるしかない。とりあえず、何乗ってるの?から入れば問題ないな。その後は…
「えーあの娘、バイク乗ってんの?ヤバくない?昨日はおとなしい子だと思ってたけど。ちょっとないわー」
「ねー、バイク乗ってるって危ない感じ。なんか怖いね」
「てか、バイクで通学とかありえないっしょ。なんで先生怒らねーの?」
「ウチの学校。バイク通学オッケーみたいだよ…ほら、学生証に…」
「まじかよ、この学校やばくね?」
唐突な会話が後ろから聞こえてきた…
え…もしかしてバイク通学認めてるこの学校でもライダーって迫害されるの?
当分はバイク乗ってるの見られないようにしよ…ヘルメット、バイクに置いてきて良かった。
HRが終わると、案の定、あの娘の周りには他の女子が集まっていた。
免許もう持ってるの?とか、バイクって怖くないの?とかヘルメットってどうなってるの?とかの会話が聞こえてきた。皆が皆、バイク危険視してるようではないようだ。
しかし、これは話しかけづらくなった。どうしたものか…
「なあなあ、本多さ、お前もバイク乗ってるんだろ?あの娘に話しかけてみろよ」
「えっ…え!?」
なんで、俺がバイク乗ってるの知ってんのこの人!?てか誰?!
「あ、もしかして覚えてくれてない?隣の席の末田修一って昨日自己紹介したじゃん。今日帰りにNinja見せてくれるって約束も忘れてる?」
あ〜〜〜〜〜!!したしたした。約束した。けど、河咲先輩とあの娘の事ですっかり吹っ飛んでた。すまねぇ…
「い、いや、覚えてるよ。マツダ君ね。いい名前だよね。広島風だよね」
てことは皆、俺がバイク乗ってるの知ってる?もしかして隠す意味無い?
「何言ってんだ?」
「いや、何でもない!」
「まあ、いいから、とりあえず話しかけにくぞ。あの地味娘めっちゃタイプだ」
おい…俺はエサか。
「話しかけようにも、あの女子の名前知らない…」
「矢間場さんだろ。自己紹介したんだから女子の名前くらい覚えておけよ」
え…何その発想、チャラくない?
「とりあえず、行くぞ、モタモタするな」
末田くん、男前すぎ!