スタートビート
オートバイに乗ってる高校生たちのちょっと特別な日常
まだ冬の気配が消えきらない4月。冷え込んだガレージには眩しい筋が差し込んでいた。
「うぅ…寒いぃ…」
打ちっぱなしのコンクリートの床がさらに冷たい。
背筋を震わせながら明かりをつけ、シャッターを開けると鋭い筋が広がって暖かさを感じさせてくれた。
「さてと…ごきげんいかがですかね」
キュルルッ…とセルを回すと一拍おいてボッボボボとエンジンか回る。
「よーし、いい子だ。今日からよろしく頼むぜ相棒」
昨日見た洋画のセリフを真似ながらご機嫌を伺う。自分のテンションも少なからず上がっている。
まあ、それもそのはず、今日から通う学校は都内でも数少ない二輪車通学可の学校だからそのワクワクを抑えられるわけがないのだ。
それに誕生日が四月の一週目という中々の運も持っている。これはもう神様からの思し召しだ。初日から二輪車通学出来るやつなんて自分くらいだろう。
気分に浸っているうちに暖気も終わって回転数が安定してきた。煩くはないが腹から全身に低音が響く。
嗚呼、これがハートビートモーターというやつか。感動。
「あんた、まだいたの?モタモタしてるほど暇はないんでしょ」
ガレージから家につながる扉、いつの間にか母親がそこにいた。
「雰囲気に浸ってたのにぶち壊しだよ…」
「はいはいごめんね。これ、今日のお弁当。公道はすべてが敵よ。安全運転でね」
不穏なことを言う母から弁当を受け取り、気を取り直してヘルメットを被る。
荷の固定、あご紐、グローブ、ガソリン、タイヤ全部ヨシ!
ブレーキもちゃんと効く。昨日念入りに整備したのだから問題はない。
「じゃ、行ってくる」
シャッとシールドを締めて、家を出た。