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事件編

「番号札58番でお待ちの一名様」

番号を言われ、俺は紙に書かれてある番号を確認した。俺の番号は58番だ。

「はい」

と、俺は待合席から立ち、中に入る。制服を着たアルバイトの女性に案内され、俺は一番奥の前から2席目のテーブル席に座った。

俺の名前は結城林道ゆうきりんどう。一応関東だとそこそこに人気のある探偵だ。探偵と聞くと、みんなは殺人事件を警察と協力して解いているイメージが強いが、実際はそんな事はない。実際はな。だが、俺はなぜか事件によく巻き込まれやすく、痴漢、恐喝、引ったくり、売春未遂から映画の盗撮事件までまあ事件という事件に出くわしている。しかし、自慢ではないが俺はまだ殺人事件には出くわしていない。刑事に顔を覚えられ、事件あるところに林道ありなどと署内で噂されていたりするらしい。らしいというのは事件を通して知り合った生活安全課の刑事がそう言っていたからである。今日は3ヶ月前から依頼されていた女性の素行調査がついに終了し、1人で馴染みの回転寿司に行きささやかな祝いをするつもりだった。だがあいにく今日は平日だが、ランチタイムの影響か人が地味に多く4、5分待たされてしまった。席に着き、コップに茶葉を少々いれお湯を足す。そしてレーンを見ながら良いものはないかと物色を始めた。

「何だァ? おい、何で俺が好きなうなぎの寿司が回ってこねぇんだよ!」

選んでいると、レーンを挟んで2つ目に座っているみるからに不衛生そうにヒゲを生やし、白髪の老人が店員にイチャモンを付けていた。

はぁ……。

最悪な時に来ちまった。

俺は心の中で自分の運の悪さにほとほと愛想が尽きる。

「はぁ……そう言われましても、それだけ人気という事になるのでは? 回ってくるのを待つのよりパネルで注文した方が確実なのでは?」

と、店員がど正論をかました。

いいぞ。もっとやれ。

俺は店員を応援する。

正直ああいう所構わず喚き立てる老害は大嫌いだった。自分はいいのかもしれないが、周りは正直迷惑だ。せっかく楽しく食べに来ようと思っているのにあんなのを見せられたら萎える。そういう周りの気持ちがわからんのかね、ああいうのは。

「なぜワシがそんな面倒な事をしなければならん!」

今度はジジイが意味不明な理論を言い出した。こりゃだめだ。

「お、お客様……周りの方にも迷惑ですので、あまり大きな声では––––」

ジジイに対応している店員とは違う制服を着た男がなだめようとしていた。身なりから察するに店長だろう。

「ああ? ワシが迷惑じゃと? 貴様……。んん〜? その顔はワシのブログで潰した店の店長じゃないか! いやー懐かしいのぅ。どうじゃ? あれから店は繁盛しとるか?」

ジジイはカッカッカと苦しそうな声で笑う。

クレーマーか。

あの人もかわいそうに。

SNSを利用するクレーマーほどタチの悪いヤツはない。ネットの影響力はそれほど強いんだ。それをああいうくだらん事に利用するなんて、許せねぇ。インターネットは本来人々の幸せのために作られたんだ。なのにああいう形で悪用しやがってからに。

「店は……潰れましたよ……」

男は拳を握り、肩をわなわなと震えさせながら言う。

わかる。

気持ちはよくわかる。

俺だってぶん殴りたいぜ。

でもここは我慢しろよ?

「カッカッカ! それは悪い事をしたのぅ! ガハハ」

「飯島さん。あなた、それより前に私と会った事、ありませんか?」

「はぁ? 会った事じゃと? はて、記憶にないのぅ。そういえばワシ、昔銀座の寿司屋で寿司食ってたアベックがおったんじゃが、その女が気に食わなくてのぅ、ネットでバカにしまくった事があるんじゃが、お前その相手の男に顔が似とるかのぅ? フォッフォッフォ」

どうやらジジイの名前は飯島というようだ。ジジイジジイというのは表現的に問題があるのでこれからは飯島と呼称する事にしよう。

しかし、飯島はとんだクレーマーだ。いや、クレーマーに良い悪いもないがきちんとこうこうこういう事があると問題点を指摘するならまだ良い。ああいう無差別にまくし立てるのは論外だ。

「おお! そういえばそこに座っとるお前も、お前もワシが潰した別の店の店員ではないか!」

飯島は同じ列に座っている小太りの中年の女性と飯島とは向かいの席で飯島から3つ目に座っている若い男を指差した。

男性

––––––––––––

飯 女性

席はこんな感じだった。

「わかりました。今日のお代は結構ですので、周りの方のご迷惑になられます。お引き取りを––––」

「お? そうか。タダか。ならたらふく食ってから帰るとするかのぅ。カッカッカ」

「そうですか。お客様は金色のテーブル席です。注文の際はご注意を」

と言うと、男はフラフラとした足取りで去っていった。

気分が悪いのは俺だけだろうか?

周りを見ると、先ほどまでは楽しげだった家族や話し声などは聞こえなくなり、しんみりとしたムードになってしまった。

これではせっかくの寿司が不味くなるではないか。

まあ、せっかく来たんだ。食べよう。

俺はレーンを見ると、うまそうなタマゴが回ってきたのでそれを取り、甘ダレをかけて食べた。うん、おいしい!

その後はイクラを取り、醤油を少々つけてガリと一緒に食べた。ガリのこの味が口直しにちょうどいい。

それから数十分、俺は色々寿司を食べていた。そして、あさりの赤だしを注文しようとした時だった––––。大きな音を立て、椅子が倒れた。

「ぐわあああっっ‼︎‼︎‼︎」

飯島は突然奇声を発し、口から泡をはいていた。そして喉をかきむしりながら倒れ、口から血を吐き、身体が痙攣し、数秒後その痙攣がなくなり動かなくなった。

「えええっ⁉︎」「なになに? 食中毒?」「寿司食ってたら倒れてたぜ」「やばくない?」「戻せ戻せ」「早く帰ろうよ!」

と、他の客はパニック状態になっていた。俺は飯島の所へ行き、脈があるか確認する。しかし、脈は動いていなかった。

「動くなッ!」

俺は帰ろうとする客に向かい、大声で叫んだ。

「一歩でも動くと犯人とみなす」

「犯人……って、その人食中毒なんでしょ?」

飯島に絡まれていた女性が飯島を指差しながら言う。

「食中毒なんかじゃねぇ。これは殺人事件だ。しかも、犯人はこの中にいる!」

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