モンキーハンド2017
夢を見た。最近消息不明になっている義理の姉の夢だ。
姉はセクシーな占い師のような格好をして、怪しい色気を放ちながら僕の前に立った。
僕の視線は、大胆に開いた彼女の胸元に釘付けになった。
ぱちん! 姉は唐突に僕の鼻先へねこだましを喰らわせた。
「うふふ、どこ見てるのよ」そう言って姉は、僕の目の前で合わせた手の平をゆっくりと左右に開いていく。
手品のように、その掌の間には黒くて細長くて毛むくじゃらな何かが現れた。
「今日はね、そんな可愛いあなたにプレゼントを持ってきたわ。三つの願えを叶える猿の手の話、知ってるでしょ? これがそうよ、あなたにあげるわ」
毛むくじゃらの猿の手を僕に押し付けると、姉は片目を閉じて投げキッスをするみたいにふっと息を吹いた。
少し生暖かくとても甘美な吐息を眉間に受けた僕はくらくらとなってその場に崩れ落ちた。
トントン。ノックの音で目を覚ました。
「あー……誰ですか?」ぼやけた頭で応える。返事がない。
恐る恐るドアを開けてみると誰もいなかった。足元に目を移すと、ふたの閉じてある段ボール箱がひとつ置いてある。
「何だろう、これ」とりあえずテーブルへ運んで慎重に開けてみる。中からプチプチ梱包材に包まれたロボットの腕が出てきた。
その腕はプラスチック製で軽い。言ってみればガンプラの腕だけ。部位は肘から下で、手首や五本の指がきちんと稼働する精巧な作りだった。
サイズは僕の腕よりだいぶ小さめだが、プラモデルと考えたらその完成体は子供ぐらいのけっこう大きなものになるだろう。
「うーん、分からん。色々考えたら腹が減って来た、ラーメンでも食べたいな」
そう独り言を言った途端、テーブルに置いたその腕がぴくりと動いた。
「うわ!」驚いて見ていると、五本の指がギギギと開き、人差し指と親指で丸を作った。
これは……。オーケーサイン?
トントン。ノックの音がして僕は飛び上がった。慌ててドアの方を見るとその向こうから声がする。
「こんにちはー。出前のお届けですよー」
出前なんか頼んでいない。僕はドアの向こうへ大声でそう告げる。
「○○号室の○○さんですよねー。ラーメン一杯お届けですよー」
僕はラーメンをすすりながら改めてテーブルの上の腕をしげしげと眺めた。
これはひょっとして、姉が夢の中でくれた猿の腕なのか?
ラーメン代は七百五十円も取られたが、三つの願いを叶えてくれるあの猿の腕の現代版なのかな。だとすれば……。
「残りを百に増やしてください」
そうお願いしてみる。一度これをやってみたかった。無限増殖ワザ。
すると腕がぴくんと動き、五本の指をしっかりと握る。そしてゆっくりと親指だけを立てた。
これはっ……! いいね。イイネ! 成功したのか!?
トントン。ノックの音がする。これは、あれだ。きっと、幸運の使者がやって来た音だ!
「どうぞ!」上気した顔をドアに向けて答える。振り向ざまに椅子から立ち上がると足を滑らせて尻もちをついてしまった。
低い位置から見上げる格好になったドアが天国の門に見える。僕の人生、ただ今より勝ち組人生デス。目の前のドアが開いて、外からのまばゆい光が差し込んで来る。
「お待ちー。ラーメン百杯、お届けでぇーす」
さっきのラーメン屋の親父が数名のバイトを伴って代わる代わるラーメンを運び込んで来る。
「え? あ、あれ。ちょっと……ちょ、ま」尻もちをついたままパニックになった僕の携帯電話が鳴る。「あ、義姉さん。も、もしもし」
『プレゼントは気に入ったかしら? 言い忘れたけど、お願いのひとつはわたしが使っちゃったからね。残りはふたつ、よく考えるのよ。じゃあね』姉が一方的にしゃべってすぐに切れる。
どんどん増えていくラーメン。立ち上がる気力もなく僕はそのまま気を失った……。
トントン。ノックの音で目を覚ました。目の前にはテーブルに乗っかったロボットの腕。
ああ、夢か。良かった……。いや、どこまでが本当でどこからが夢だったのだろう。
トントン。音で我に返る。僕はすがるように腕に向かって叫ぶ。
「どうか、僕の願いを全部取り消して下さい!」
腕がぴくりと動いた。ギギギと五本の指を握りしめ……ビシッと中指が立てられた。
「○○さーん、いないんですかー。ラーメン伸びちゃいますよぉー」
2ちゃんのワイハイへ久しぶりに参加しようと思いましたが、どうも連投規制のとばっちりを受けたようで投下することが出来ず……参加は無理っぽいです。