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38話「ゴリアテ3」

 三人がそれぞれの戦法でゴリアテをなぎ倒しながら進撃し、とうとう本拠地「タイタン」までたどりつく。

 タイタンはくすんだ灰色のような光を放つ、地球と同じくらいの大きさを持った惑星だ。

 アルジェントの赤い機体がまず突入し、十五メートルほどの距離を置いて陸斗の白い機体が続く。

 最後のグラナータの機体は彼のものよりもさらに百メートル近く離れている。

 それがあだになるのかと言えば決してそうとはかぎらない。

 本拠地を守る護衛のゴリアテが惑星の外にも出現し、グラナータはその護衛の群れを撃破してスコアを積む。

 このモードのクリア条件はボスを倒すことであるが、ボスを倒さなければトップを取れないわけではない。

 アルジェントや陸斗と競争するよりも、宇宙ゾーンに出現する護衛ゴリアテを倒すことで着実に稼ぐのも立派な作戦だった。


(そうきたか、グラナータ)


 惑星内に突入し白く分厚い雲の中を突っ切りながら陸斗はそのことに気づく。

 気づいたところで今さら作戦を切り替えようとは思わない。

 

(今から行っても中途半端になるだけだ……)


 平凡なプレイヤーとのバトルであれば巻き返すこともできるだろう。

 しかし、グラナータが相手となるとかなり厳しいし、アルジェント相手に時間を浪費するのもまずい。

 そのアルジェントはと言うと彼の数メートル先で戦闘をはじめたようだ。


(こうなるとちょっとまずいか)


 陸斗は少しだけ危機感を抱く。

 アルジェントやグラナータとの勝負に負けるのは一向にかまわない。

 だが、意外と大したプレイヤーではないかもしれないと思われるのは大いに困る。

 一種の見栄のようなものであろう。

 そう自覚しながらも、彼はせっかくできたゲーマー仲間から失望されたくはなかった。

 

(ばれないように……言い訳ができるように)


 雲を抜ける前ならばまだ何とかなるかもしれない。

 陸斗はそう考えてある手段を実行する。

 それは雲の中からはるか下の方向にいるゴリアテたちを狙い撃つというものだ。

 聞こえてくる戦闘音の方向と大きさからアルジェントがどこでどのように戦っているのかを割り出し、これまでのプレイ記録からゴリアテたちがどれだけ出現していてどのように展開しているのかを予想する。

 何をやったのか理解されても「まぐれ当たり」と言えるようにセーブしつつ、ミサイルをばらまく。

 彼の狙いは見事に当たり十体のゴリアテから同時に「ナイス」判定が出る。

 これにはさすがのアルジェントもぎょっとなったらしく、一瞬戦闘速度がにぶった。

 

(やば……もしかしてちょっとやりすぎたか?)


 陸斗はそれを耳で理解して懸念を覚える。

 もう少し抑えるべきだったかもしれないが、こうなってしまっては後の祭りだ。

 

(こうなってしまっからにはせめて堂々としていよう)


 下手におどおどしていると余計に疑われてしまうだろう。

 あっけらかんとした態度であれば追及するのも難しいに違いない。

 そのようなことを必死に思考していたせいか、二発続けて外れてしまった。

 「ヒット」さえ取れないのは彼にしてみればとても珍しいことである。 


(おっと集中、集中)


 そのことを恥ずかしく感じ、反省した彼は集中しなおす。

 プロ選手として鍛えられてきたおかげで立ちなおるのに一秒もかからなかった。

 雲を抜けた陸斗の目には灰色の大地といくつものクレーター、そして赤と黒のゴリアテに群がられている赤いバトルシップが映る。

 普通ならば絶体絶命のピンチなのかもしれないが、彼にはアルジェントがわざとそのような状況にしたとしか思えなかった。

 事実多勢に無勢と言うしかないにも関わらず、アルジェントの赤い機体は一発も被弾せずゴリアテたちの攻撃をひょいひょいとかわして反撃で仕留めていく。

 

(これはもう芸術的だな)


 陸斗は思わず見とれそうになる。

 このゴリアテというゲームでハイスコアを出すためのお手本というものがあるとすれば、まさに今アルジェントがやっていることだろう。

 そう本気で思えるプレイだった。


(そう言えばアルジェントの奴、これ録画しているのか?)


 ぜひ録画しておくべきではないだろうか。

 もしとっていないのであれば次からは撮るように提案してみようと本気で考える。

 彼はすっかりアルジェントに勝つ気を失ってしまっていた。

 そのままゲームはアルジェントの優勝、グラナータが二位で終わる。

 終了とともにプレイヤーは乗っているバトルシップと一緒にゲーム開始地点でもあった基地へと戻された。

 するとアルジェントが陸斗のところに駆け寄ってくる。


「ねえ、グリージョ、途中で手を抜いた?」


 その声はいつになく硬く、マスク越しに見える表情もけわしい。 


「いや、そんなことないよ」


 陸斗はいそいで否定したものの、内心しまったと舌打ちをする。

 「タイタン」に入ってからの彼のプレイはそのように解釈されても仕方ないものだったのは事実だ。

 

「嘘、手抜いたでしょ?」


 普段は素直に彼の言葉を信じるアルジェントも今回ばかりは納得できなかったらしい。

 詰め寄ると言うには動きはゆっくりだったし、非難すると言うにはその口調はやわらかった。

 それでも抗議の意思ははっきりと示される。


「え、グリージョが?」


 グラナータは意外そうに目を丸くして二人の顔を交互に見た。

 陸斗がそのようなことをするとは思えないが、そうでもなければアルジェントが彼に対して不満を口にするはずもない。

 そのように結論を出して彼に問いかけるような視線を向ける。


「いや、だってアルジェントがメチャクチャ上手かったから」


 仕方なく陸斗は本当のことを話した。

 そっと視線をずらしたのはそれだけ恥ずかしかったからである。

 

「えっ……」


「あら」

 

 これに驚いたのはアルジェントとグラナータだ。


「か、からかってる?」


 アルジェントはそわそわしながら声を震わせる。

 動揺しているのは明らかだったが、グラナータにしかそれに気づく余裕はなかった。

 

「そんなわけないだろ」


 陸斗はほんの少しムッとする。


「からかうためだけにわざと負けるなんてまね、俺がするわけないじゃないか」


 それくらい分かってほしいという気持ちが強く、アルジェントがどうしてそのような反応をしたのかと考える余裕がなかった。

 

「そ、そうだね……」


 アルジェントは完全に照れてしまい、うつむいてモジモジしている。

 それを彼は理解してもらえたと判断してホッとした。

 二人の様子を見ていたグラナータは呆れたようにそっと息を吐き、彼のところにやってくる。


「対戦しているのも忘れてプレイに見とれていたみたいなこと言われたら、アルジェントが照れてしまうって分かってないの?」


 微塵も分かっていなかった陸斗は目をパチクリさせ、数秒後自分の発言がどれだけ恥ずかしいものか気づく。

 

(グラナータがミノダトオルのファンだって言った時の俺みたいなものか?)


 情けない叫び声をあげながらその場にうずくまりたくなった衝動をぎりぎりのところで抑え込む。

  

「グリージョも意外と鈍感というか、天然なんだ……」


 グラナータの言葉が彼の胸にぐさりと突き刺さる。

 何か言い返したくても、これでは何を言っても説得力などないだろう。

 別にグラナータはからかうつもりはなさそうであるため、沈黙を守ることにした。

 黙っている彼をよそにグラナータはアルジェントに話しかける。


「そう言えばプレイ動画、撮ってなかったの? グリージョが思わず見とれちゃったプレイなら、私も見てみたいんだけど」


 グラナータは結局惑星内に突入して来ず、それゆえにアルジェントのパフォーマンスを見られなかったのだ。

 

「えっ? 撮ってないよ。今回はそういうのナシで遊ぼうと思ってたから」

 

 我に返ったアルジェントはそう答える。

 それほどまでに楽しみにしていたのか、と陸斗は感じてうれしかった。

 だが、さすがに今このタイミングでそれは言えない。

 

「そっか。あれならみんなに見てもらうべきだと思ったんだけど」


 この発言もするかどうか迷ったものの、結局声に出す。


「もう、グリージョ」


 アルジェントは抗議を返してきたが、不快感はかけらもない。

 照れの裏返しだとすぐに分かるものだった。


「グリージョ」


 グラナータのたしなめるような声に彼はごまかし笑いを浮かべる。

 結局、この後勝負を再開するにはしばらくの時間が必要になった。

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