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3話「戦友アルジェント」

 二人は大獄山に行く為にイセスズという街に移動する。

 そこのクエスト斡旋所で受付のNPCに依頼を申し込む。

 斡旋所の中は特に珍しいものはない。

 茶色い頑丈そうなテーブルに若い女性NPCが二人座っている。

 左側が採取系クエスト、右側がモンスター討伐系クエストを扱っているのだ。


「炎竜の討伐クエストを二人で受注します」


「炎竜を二人で……アルジェント様とグリージョ様でしたら問題ありませんね」


 受付嬢は目を丸くして一瞬言葉に詰まり、ついで疑問が氷解したという表情に変わる。

 人間そのものとしか思えず、グリージョも初めて見た時は驚いたものだ。

 依頼書を受け取ってアイテムボックスにしまう。

 もうここに用はないと外に出たところで、アルジェントがぼそりとつぶやく。


「あのセリフ、もうちょっと何とかならないかな」

 

「そう言うなよ。そこまでは手が回らないんだろう。運営も」


 グリージョは相棒をたしなめる。

 たしかにNPCに改善の余地はあると思うが、ゲームの世界にひたるのにさしつかえはない。

 それならば別にかまわないというのが彼の意見だった。


「うん、まあね」


 アルジェントは賛同を得られなかったことに残念そうであったが、それ以上は言葉を慎む。

 彼と意見を戦わせるつもりはないようだ。

 彼らは転移ゲートに行ってダンジョンマップの大獄山を選び転移する。

 到着したのは山の中に設置されているゲートだ。

 今回彼らが飛ばされたのは地下五階と呼ばれている階層である。

 そこを出るとすぐに真夏さながらの熱気が彼らを襲うが、装備のおかげで何の影響も出なかった。

 赤黒い土でできた曲がりくねった道を彼らは迷わず進んで行く。

 道は数人が横に並んで歩ける程度の広さだが、その両脇には溶岩がある。

 すでに敵がエンカウントするエリアである為、彼らは周囲への警戒をおこたらなかった。

 やがて足音が聞こえてきて、赤い毛並みの熊型エネミーが姿を見せる。

 ソロ用クエストではボスとして登場するボルケーノベアーだった。


「お、ラッキー。いきなりボルケーノベアーが出たよ」


 しかしアルジェントは全く緊張感なく、それどころか無邪気に喜ぶ。

 ボルケーノベアーも炎竜ほどではないが、有益な素材を落とすからである。


「ついでに狩っておくか」


 グリージョもまた「朝起きたから顔を洗うか」と言うような気安さで戦闘態勢に移った。

 彼らは似た者同士のペアだと言えるかもしれない。

 ベルーアブックというゲームはパーティーの上限は四人だ。

 そして大まかには敵の攻撃をひきつける壁役、敵にダメージを与えていく火力役、仲間を回復したり特殊効果を付与する支援役の三種類に分かれる。

 二人しかいない彼らは、二人でいろいろとこなす必要があった。

 だが、彼らはそれを何と思わないだけの技量がある。

 アルジェントがスキルを使ってボルケーノベアーの注意を引き、咆哮とともに繰り出された腕での攻撃を氷竜の剣をかざして受けとめ、その隙にグリージョが呪怨の双剣で足を素早く四回斬る。

 ヘイトが素早く離れるグリージョへと移った瞬間、アルジェントも大剣のリーチを活かして大きな熊の頭部を狙う。

 剣なのだから斬撃のはずだが、叩きつけるようなエフェクトが出るのが大剣の特徴である。

 この時、アルジェントがボルケーノベアーの反撃を食らわない位置に移動しているのは言うまでもない。

 二人のプレイヤーから集中攻撃を受けたボルケーノベアーは、本来の実力をかいま見せることすらなくあっさりと散った。


「五十二秒か。まあまあかな」


 戦闘記録とタイムを確認したアルジェントがそう言う。

 ソロで十分、ペアで五分以内に倒せれば一人前と言われているボスを倒したタイムと感想ではなかった。


「いいの出なかったな。アルジェントは?」


 グリージョの方はタイムには興味を示さず、ドロップの方を気にかける。


「あ、溶岩熊の紅魂珠が二個出たよ。一個いる?」


 アルジェントの問いに彼は即座にうなずく。


「トレードできる素材が何か出たらいいんだが、ダメだったら買い取るよ」


「うん」

 

 二人はそこで会話を終えると壁際に移動する。

 そこに黒鋼の採掘ポイントがあるのだ。


「じゃあちょっと待ってくれ」


 グリージョはそう断って採掘に励む。

 パートナーは彼の様子をチラ見しながら周囲を警戒する。

 採掘中不意打ちされるケースは決して少なくはない。

 それでダメージを受けるのは彼ら上級者にとって割と屈辱的である。

 採掘ポイントを五か所ほど回ったグリージョはホクホクしていた。

 期待以上の成果だったのである。

 残念ながらアルジェントとトレードできる素材は出なかったのだが、ひとまず今回のクエストの目的は達成できた。


「よかったねえ」


 アルジェントが自分のことのように喜んでくれた流れで二人でハイタッチをかわす。


「じゃあついでに炎竜を退治にいきますか」


 落ち着いた彼らはそのままマップの奥に進み、クエストクリア条件である炎竜のすみかを目指した。

 途中出てくるレッドウルフを適度に狩りながらである。

 ある程度数を減らすと狼型のエネミーたちはいっせいに逃げ出した。


「こうしてみると何か動物と戦ってる感はあるよな」


「そうだね」


 グリージョの発言をアルジェントはとりあえずという態度で肯定する。

 やがて彼らはボスがいるところへと到着した。

 炎竜は竜の巣と呼ばれている大きなエリアに鎮座していて、彼らが進入するとすぐに首をもたげて威嚇の咆哮をする。

 どんなアトラクションも顔負けのど迫力なのだが、今回は相手が悪すぎた。


「タイムアタック狙ってみてもいい?」


「いいけど二人だから一分切りは無理じゃないかな」


 アルジェントに対してグリージョはそう応える。

 炎竜は何回も狩っていて攻略法を知っている相手だが、それでもマルチボスだけに体力は多めだ。

 物理的というか頭数による限界というものは存在する。


「二人で二分台を出せたらいいんだけど、まあやってみよう」


 アルジェントはそこまで欲張ってはいないと苦笑した。

 緊張感がかけらもない不届きな侵入者たちに対して、このエリアの主は怒りの洗礼を浴びせる。

 竜系ボスの定番と言えるブレス攻撃だった。

 炎竜がはくブレスを食らってしまうと、大きく体力が削られる上に攻撃力と防御力がさがるうえにやけど状態になってしまう。


「じゃあ全部避ければいいよね」


 というのがこの二人の戦術であった。

 どちらも機動力重視の近接職で、一人で盾役と火力役をこなしてしまう。

 ボスにしてみれば悪夢のようなコンビである。

 今回、ブレスを避けて左右に散った二人は競い合うように左右から距離を詰めた。

 炎竜はアルジェントの方に顔を向ける。

 それを見たグリージョはスキルを使って加速した。

 そのタイミングを見計らったかのように、炎竜が尻尾を彼に叩きつける。

 視線が逸れたからと油断すればそこに痛撃を浴びせられてしまうのも、竜系ボスの特徴だった。

 しかし、グリージョはそれくらい百も承知している。

 難なく尻尾をかわしたどころかその尻尾に飛び乗り、呪怨の双剣の乱舞攻撃を繰り出す。

 炎竜はたまらず咆哮をあげて身をよじるが、グリージョは剣の一本を尻尾に刺して自身を固定し、もう一本の剣でちまちま斬る。

 翼なき竜は左右に回転して彼を振り落とそうともがくものの、ほどなくして呪怨の双剣の効果「呪い」が発動し竜の自由を奪った。

 「呪い」の効果を持つ武器で一定数ダメージを与えれば、モンスターの動きを一定時間止めてじわじわそのHPを削るのである。

 「麻痺」と「毒」の効果を併せ持つこの武器を彼は愛用していた。

 もう一方のアルジェントは暴れる炎竜の動きを全て予測しているかのように紙一重で避け、ひたすら後ろ足を氷竜の剣で殴る。

 やがて竜は苦悶の声をあげて転倒し、ほぼ同時に竜の尻尾がきれいに切断された。


「ボクが前足、グリージョが頭ね」


 アルジェントの叫びにグリージョは行動をもって応える。

 炎竜は尻尾、前足、頭部にダメージを一定数与えると戦闘力が低下し、ドロップアイテムが増えるのだ。

 尻尾を切断したことで尻尾攻撃を封じ、前足を破壊すれば動きが遅くなり、頭部にダメージを与えればブレスを撃てなくなる。

 彼らの場合はそのようなことをしなくても別に問題ないのだが、「とりあえず壊せるところは全て破壊」というのが彼らのスタンスであった。

 マルチボス炎竜はボルケーノベアー同様、ほとんど何もできずに沈んでしまう。


「討伐時間、四分二十秒か……二人だと三分台は難しいね」


 この場には二人しかいない為、「マルチボスを討伐するタイムじゃない」というツッコミは発生しなかった。


「グラナータがいれば二分台を狙えたかもな」


 グリージョの方も当然のような顔で発言する。

 

「タイムアタックやるならやっぱり支援タイプもいるか〜」


 「そもそもマルチボスは四人用の敵だ」というツッコミもやはり起こらない。


「さて、この後はどうする? もうちょっと何か探す?」


 アルジェントは上目遣いでたずねる。

 ベルーアでは目的を達成した後も自動で帰還とはならず、そのままダンジョンの探索を続けることができるのだ。

 

「せっかく来たんだし何か探そうよ。アルジェントは何かないのか?」


「ボクは何でもいいんだけど……何かやるとすればネットにアップする為のタイムアタック動画を撮りたいかな。炎竜以外にもさ」


 アルジェントはネットに動画を投稿して広告収入を得ている。

 ベルーアのユーザー機能にはプレイ動画の撮影があるのだ。

 収入額は動画の人気・再生数によって変動する為、いい動画を撮りたいと考えるのは当然だろう。


「それは別かまわないんだが、再生数を稼げそうなボスって大獄山にいたっけ?」


 グリージョは自身がプロe選手ということもあるし、ゲームでアルジェントによく手助けしてもらっている為、それに付き合うことに抵抗はない。

 

「灼熱獅子かな。ペアで三分台を出せばいけると思う」


「あいつか…」


 アルジェントの発言に彼は納得する。

 灼熱獅子は攻撃力が高いうえに動きも速く、ライトユーザーにとっては難関と言われるマルチボスだ。

 そればかりではなく腕自慢の猛者たちが彼ら同様、タイムアタックの相手によく選ぶ存在でもある。

 

「ちょっとやってみるか。あいつって何階にいるんだっけ?」


「六階だからそんなに遠くないよ」


「そうだな。じゃあ試してみようぜ。その前に採取しておいてもいいか?」


 グリージョの視線は竜の巣の内部に向く。

 ボスがいるエリアにも採取ポイントは存在しているのだ。

  

「いいよー。ボクも適当にやっておくね」


 そして通常のエリアとは違い、ボスを倒した後であれば敵に襲撃される心配がいらない。

 ボスがクエスト達成条件になっていない場合は、時間が経過すると復活してくるのだが。

 二人はピッケルをとり出してカンカン採掘にはげむ。

 漏れなくエリア内を回った結果、なかなかいい素材が集まった。


「よっし、目的達成」


「おめでとー」


 二人は何となくその場の空気に従い、再びハイタッチをする。

 手を引っ込めるとクスクス笑いあう。


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