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17話「ロペス記念・グループステージ」

グループステージはAからDまでが先に別々のフロアで同時におこなわれる。

 そしてその光景はインターネット配信で世界に生中継されるのだ。

 ただ、プレイヤーネーム制度を利用している選手のため、選手の素顔が放映されないように配慮はされている。

 今はミナ、陸斗、ヴィーゴ、岩井がそれぞれのフロアで、選手用の黒スーツをまとい決勝ステージの進出をかけた戦いに挑む。

 陸斗と同組の強豪はWeSAランキング六位、ギュスターヴ・バシュロだ。

 主にパズルゲームを得意としているが、他のジャンルも弱くはない。

 ツアー戦のテーマに使われるジャンルは複数あるため、はっきりとした苦手ジャンルがある選手がランキング一ケタに入るのは難しいのだ。


(だいたい、エトウさんの心配をしている余裕なんて俺にはないしな)


 陸斗は目の前の戦いに集中する。

 去年のこの大会で八位に入ったのは事実だが、その後成績がふるわなかったのも現実であった。

 今年こそはという思いを胸に抱きつつ、彼はヴァーチャル世界の赤いマシンに乗る。

 今回マシンが並べられる順番は運ではなく、ランキング順であった。

 当然バシュロが一番前であり、陸斗は三番めである。

 不公平と言うならば実力で優位を勝ちとれというのが主催者のスタンスなのだろう。

 

「アーユーレディー?」


 ゲームではおなじみのアナウンスが陸斗の耳に届いた。

 それから前方の信号機のランプが順にともっていく。 

 一番下のランプがともった瞬間、八台のマシンはいっせいにスタートする。

 

「全員スタートダッシュ成功かよ!」


 観戦者からは驚嘆の声が漏れた。

 これは世界の頂点をかけたタイトル戦のひとつ。

 いきなり遅れてしまうような者はいない。

 砂漠コースは数メートルほど走っていきなり大きな右方向へのカーブがある。

 それをどれだけスピードを落とさずに曲がれるかというのが第一のポイントと言えるだろう。

 まずはバシュロがこともなげにそれを実行し、陸斗ともう一人がそれに続く。

 右へ左へ大きなカーブが連続したが、八人のうち誰も離されていない。

 何度かマシン同士が軽く接触しあったものの、その程度で脱落する者はいなかったのだ。


(さすがはタイトル戦、レベルが違う)


 それをミラーで確認した陸斗はうなる。

 一般戦や市販のゲームであれば、早くも脱落者が大量に出ているだろう。

 最後尾の選手との差もほとんど変わっていない。

 そうしているうちに長い直線コースに入る。

 ここからがバトルサーキッツの本領、妨害ありだ。

 バシュロともう一人は何も仕かけてこない。

 ライバルへの妨害はスピードを代償にするため、僅差でトップ争いをしている者がやるにはデメリットの方が大きいという判断だろう。

 陸斗にしても同じような考えである。

 だが、後ろの者たちは違う。

 上位につけている選手、特にバシュロが後続に抜かれてしまうようなミスをするとは思えない以上、リスクを覚悟で勝負に出る必要があった。

 バトルサーキッツデンジャラスにおける妨害方法とは、専用の妨害技を使う。

 それとは別にマシンを相手のマシンにぶつけるという方法もあるが、こちらリスクが大きく使う者はあまりいない。

 やぶれかぶれになった者くらいだろうか。

 妨害技とはスピードを落とすのと引き換えに減速させる効果を持つビームを撃てるというものだ。

 射程範囲はそこまで長くはない。

 陸斗が日本でオンライン対戦をした時早々と止めたのは妨害不可能な差をつけてしまったからである。

 しかし、今回は最下位の選手でもトップを奪える程度の差しかない。

 四位以下の選手は一斉にビームを撃ってきて、一気に大混戦におちいった。

 さすがのバシュロも三人に同時に攻撃を受けたせいで順位を落としたし、陸斗も五位まで落ちてしまう。

 それでも彼は焦らなかった。

 砂漠は先述のとおり長いコースで、しかも一本につき三周しなければならない。

 一周めの半分も過ぎていない段階で勝負を仕かけるのは時期尚早だと判断する。

 その程度のことくらい妨害してきた選手も承知していた。

 それでもあえて仕かけてきたのは、バシュロに気持ちよくトップを走らせ続けるわけにはいかないと考えたからである。

 一度順位を落としてそこから挽回しようとすれば、トッププロと言えども消耗は避けられない。

 上の者を少しでも消耗させることによって自分がグループステージを突破する確率をあげる。

 決して示し合わせたわけではなく、似たようなことを考えた者が多かっただけの話だ。

 陸斗が動かなかったようにバシュロも動かない。

 三本勝負でタイムがよい上位二名が勝ち抜けるルールであるため、最悪一本めは捨ててもよいと思っているのかもしれなかった。

 そう思っていてもいざ一本めで好タイムを出されてしまうと二本めからが苦しくなる。

 そのあたりに選手同士の駆け引きが入る余地があった。

 一周目はそのまま終わり、トップは五分二十五秒で通過する。

 陸斗は四位で五分二十七秒での通過、バシュロはほぼ同時に五位だった。

 彼ら二人はじわりと順位をあげた形である。

 妨害を仕かけずに順位を上げられたのは地味だが小さくはないと彼は思う。

 できればバシュロには落ちてもらいたいところだが、そのような甘い相手ではない。

 現在のトップはランキング十四位のラックウェル。

 彼から見ればやはり格上である。

 この二人だけがライバルと言うには危険すぎるが、それでも強力で無視できない競争相手には違いない。

 

(さてどうするか……?)


 彼から仕かけるという選択肢はあるものの、何もしなくても他のプレイヤーが妨害してくれる可能性は非常に高い状況だ。

 いっそのこと漁夫の利を狙うという手もアリかもしれない。

 世界の強豪との戦いは綺麗事だけでは限界があるのだから。

 最悪一本めは捨ててもよいと思い、様子をうかがうことにする。

 バシュロがこのまま終わるはずがないという警戒心がそれだけ強いのだ。

 激しい小競り合いを繰り返しながら二周めを通過する。

 現在のトップはラックウェルであり、通過タイムは十分五十九秒だった。

 バシュロは三位まで浮上し、陸斗は四位をキープしている。

 妨害ビームを何度か受けながらも首位を堅持するラックウェル、さりげなく順位を上げてきたバシュロはさすがと言えた。

 

(ここまでの経過タイムは悪くないんだよな)


 二本め以降がこれよりもタイムがよくなるか、判断が難しい。

 決勝に進めるのはあくまでもタイムがよかった者だ。

 たとえ一位でゴールしてもタイムが悪ければまったく意味がない。

 そのため好タイムで一位通過した者は二本めからは全体のタイムが悪くなるよう、ひたすら妨害する作戦に出る可能性もある。

  

(やってみるか)


 三周めの序盤のカーブを数回曲がったところで陸斗は腹をくくった。

 長い直線に入った段階では仕かけない。

 ここで仕かけなければどうするというタイミングだと思ったからこそ、あえて何もしないことを選ぶ。

 すると他のプレイヤーたちは今回陸斗は動かないと判断したか、彼を後回しにした潰し合いをはじめる。

 真っ先に狙われたのは言うまでもなくラックウェルだ。

 それからバシュロである。

 誰から見てもこの二人こそ叩いておきたい存在なのだ。

 バシュロにまで攻撃を浴びせられたラックウェルは一気に順位を六位まで落とす。

 それでも大きく離されなかったあたりに底力を感じる。

 最後の周ということもあって攻防は激化し、これまで被害を最小限にとどめていた陸斗も容赦なく巻き込まれてしまう。

 陸斗は必死に順位を死守しながら、みんなの隙をうかがっていた。

 チャンスはおそらく一回しかない。

 タイトル戦の優勝を狙う強豪に同じ手は二度通用するはずもないのだから。

 

(ここだっ!)


 彼が仕かけたのは最後の直線の手前にあるタイトコーナーである。

 通常ならばここで妨害技を使うのは至難の業であり、それは彼も例外ではない。

 だが、勝つためにはリスクを承知で賭けに出る必要があった。

 トップがコーナーに入ったシビアなタイミングを狙い、妨害ビームを放つ。

 今まで動かなかった彼がここで動くと想定できていた者はいなかったらしく、前方は一気に混乱しマシン同士が激しく接触する。

 とは言ってもそれはほんの二秒以下にすぎず、不意打ちを食らったはずの選手たちはすでに態勢を立てなおしていた。

 もっとも、陸斗にしてみればその二秒以下の隙で十分である。

 内側にできたマシン一台分のスペースをドリフトですりぬけ、直線に入る瞬間アクセルを踏み込みまんまと逃げ切った。

 総合タイムは十六分三十二秒五五だった。


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