ゴンカジウス
ゴンカジウス
本題に入った途端に渡されたのは白い紙だ。
そしてたった一言喋っただけで本題は終了した。
それはたった2文字。
口の動作が2つだけ。
白い死神との会話はそれで終わったのだ。
屈託のない笑顔の中に潜む、歪曲した感情。
そんな神に俺はやっぱりなれないな。
馴れないし、為れないな。
「( )!」
「降りてらっしゃい!」
母親が名前を呼んだ。
( )と呼んだ。
その単語は俺には聞こえないし、この世界に俺の名前はない。
国語のテストのような表記で問いかけられても、絶対に埋められない問題だ。
リズムよく階段を下りていく。
たった12段の階段だが、この道のりは俺にとっては螺旋階段のように長い。
「俺は」
「どこの」
「誰で」
「なんで」
「息を」
「吸って」
「吐いて」
「あたり」
「前の」
「ように」
「生きて」
「いるん」
最後の言葉を言う前に階段は終わってしまった。
足元に広がるのは平らな世界だけ。
段差なんて気の利いたものはどこにもない。
完全に不完全燃焼である。
俺は振り返って階段を見た。
何の変哲もない、普通の家の階段だ。
特に手摺に拘ったとか、足元に照明があるとか。
そんな飾り気も気遣いもない、普通の階段だ。
階段の上で誰かが対峙していたら楽だっただろう。
しかし、やはりと言うべきか、そこには空間しかない。
空白であると同時に、俺にとっては空虚そのものだ。
息を飲み込んだ、そしてじっと空間を見る。
この高低差ぐらいが丁度良く、心地良い。
( )は息をしながら死んでいる。
なぜならば、俺は普通を騙る【レオ】であって( )ではない。
何でもない空間が非常に空しく感じるのは言葉の空白のせいだ。
俺はあるはずのない誰かを睨んだ。
そして死に損なった空虚に言葉を捧げた。
皮肉であったり、恨みであったり、憐みであったり。
しかし、すべての言葉に対して共通して言える事がある。
俺はけして不幸ではないと言い聞かせた。