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豪商と、
あるところに、巷で名の知れた豪商の一家が住んでおりました。
その一家は、珍しいものを売っておりました。
高価な薬草。色鮮やかな絹。美しい玉。
玉とは、古代から東洋。主に中国で金よりも価値のあるものとされた宝石。
ヒスイを指す言葉でございます。
この豪商の一族は、入手が困難で、希少価値の高いものばかりを好んで仕入れていたそうです。
世に五万といる商人たちが、喉から手が出るほど欲しがるものばかりを。
そんな豪商一家は、ある秘密を抱えておりました。
どうやって仕入れているだとか、そんなちんけなモノではございません。
彼らの出生にまつわる、重く、暗い秘密でございます。
―さて、前置きはこの辺で。
これより皆様にお目にかかりまするは、昔々、そのまた昔。
今よりずーっと昔のお話です。
今ではめっきり薄れた神や妖。非科学的だと、現実味がないと笑われる、それらの魑魅魍魎が、ずっとずっと身近だった―。そしてごく自然に、存在していた時代のお話。
そんな時代の、とある男女の、数奇な運命をたどった物語でございます。