機械×出会い
機械の条件というものはなんだろう。
特定の動き、返答、命令されたことしかできない物。それが機械か?
人間の条件というものはなんだろう。
五感があり、食べて、寝て、それができれば人間なのだろうか?
俺にはわからなかった。
三年前、両親が事故で死んだ。
それからというもの、俺の妹の凛は機械のようになってしまった。
笑うこともせず、泣くこともせず、憤慨することもなく、何かを楽しむこともない。
義務教育である中学にも通わず
ただ、3食食べて、寝る。
たまに風呂に入ったり、用を足したり
それ以外はずっと虚空を見つめていた。
いくら話し掛けても返事はなく、茶髪の髪の毛も伸びきり、前髪は目が隠れ、後髪は床に着きそうだった。
まるで機械だった。
いつしか俺はそんな凛を見ているのが、心苦しくなっていた。
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ー五月、某日。
「はぁ……」
俺は、子供の頃から、すっかり癖になっている風呂上がりの牛乳を飲み干すと、ため息を吐いた。
今日も相変わらず、凛は機械のように一定のパターンの行動を繰り返すだけだった。
かくいう俺も、高校へ行くわけでもなく、働いているわけでもない。
他人が見れば、ただの引きこもりだと思うであろう生活を送っている。
まぁ、実際引きこもりと言われれば、反論できる自信はない。
「寝るか…」
特にやることがあるわけでもない俺は、可愛いのか可愛いくないのか好みの分かれそうなイメージキャラクターの書かれたパックの牛乳を冷蔵庫にしまうと、
戸締りのために玄関へ向かった。
まぁ、戸締りも何も、何日も出掛けてないんだから鍵が開いている訳もないのだが、
癖になっているためか、確認しないとどうも寝付けないのだ。
玄関の手すりの側にあるスイッチを押す。
パッ
と真っ暗だった空間に光が灯る。
鍵のツマミはいつも通り、縦になっていて
縦に…なっていて?
縦に…
開いてる!?
上を見ると、ドアガードも倒され、誰かが外からドアを開こうものなら、一発で開いてしまうようになっていた。
「嘘だろ!?」
凛が…いや、それはあり得ない。
じゃあ誰だ?俺か?
それもない。
確かに、食品配達サービスを受け取る時には、さすがに対応するが…最後に来たのは一週間前だ。
万が一開いているようなら、俺が気付いて閉めるはずだ。
そこでふと気付く。
ドアの隙間に何か紙が挟まっている。
「何だこれ…?差出人不明?」
適当にサンダルを履いて、ドアを開ける。
「うおっ!?」
ドアごしでは気付かなかったが、紙と一緒に、馬鹿でかいダンボールが、ドア横の壁に立てかけてあった。
「おいおい…人でも入ってるみたいな大きさだな…」
こんな大きいものを放っておくわけにもいかず、とりあえず横倒しにして家に入れる。
ここからが難関だった。
なんにせよ、俺の部屋は二階だ。
誰か、他に手伝う人がいるならともかく、一人で人ぐらいの大きさの荷物を運ぶのだ。
何回か滑り落としそうになりながらも、ようやく階段を昇り終え、自室に荷物を入れた。
「あ…開けてみるか。」
どこから届いたのかは不明だが、確かに宛先人は俺になっている。
開ける権利がないことは無いだろう。
プラスチックの留め具を外し、貼ってあるビニールテープをカッターで切り、蓋を開けた。
「うわ…」
中身は、妙にリアルなマネキンのようなものに、一枚のPC用ソフトだった。
「アン…ド…ロイド…?」
【試作アンドロイド YU-RI-00】
同封されている説明書にはそう書いてあった。
「おいおい…怪し過ぎだろ…」
俺が普通の精神状態だったら、この時点で蓋を閉め、テープを貼りなおして、即刻、ゴミ置き場に向かっていただろう。
だが、説明書の表紙に書かれているキャッチフレーズに、俺は奇しくも惹かれてしまった。
【この機会に一家に一台。あなたの心をきっと癒してくれます。】
「癒し」
長らく俺が感じていなかったもの。
俺はその言葉に負け、説明書通りにマネキンにソフトをインストールしていった。
必要なケーブルなどは、箱の底に同封されていて、作業はこれといった難所もなく進んだ。
まぁ、時間はかかったが。
完成したのは午前3時ごろ。
だが、そこまで時間をかけた作業が終わっても、一向にアンドロイドとやらが動く気配はなかった。
「…何やってんだろ……俺。」
そうだ。常識的に考えればわかるはずだった。
アンドロイドなんて所詮、アニメや漫画の中だけでの話だ。
現実に存在する訳がない。
「アホらし…」
あの粗大ゴミは明日の昼にでも捨てに行こう。
俺はそう決めて、寝ることにした。
凛の部屋に行き、
「おやすみ」
と声をかけ床につく。もちろん、返事は返ってこなかった。
まぁ、凛が普通の状態であったとしても、この時間は寝ていて返事など帰ってこなかっただろうが。
自分の部屋に戻り、ベッドに倒れ込む。
カーテンを閉め、電気を消すと、部屋は完全な闇に包まれる。
この時だけは、落ち着く。
意識が段々と遠のき、俺は眠りについた。