表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

灰色の戦場で、君だけが笑っていた―――それが、死にゆく俺の見た幻影だとしても

作者: しろ梟
掲載日:2026/03/13

初投稿です!戦場での兵士と少女のお話になります。少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

俺は、町だった平野に立っている。


かつてここにあった人々の営みは、俺の国と、目の前の敵によって踏みにじられ、平野は灰色の死体へと変わった。

俺は軍の下っ端。

代わりはいくらでもいる一兵卒だ。

そんな捨て駒の俺が、今日まで生き残ってこれたのは、ただの幸運か、あるいは呪いか。


「おい、一兵卒。行ってこい」


上官の声に応じ、俺はいつものように廃墟の町へ巡回に向かう。

人員不足で、いつも単独行動だ。 静まり返った抜け殻の町を歩く。

いつも通りの、抜け殻の死んだ景色のはずだった。


「ラー、ラララ~」


場違いな歌声が聞こえた。

戦場のど真ん中。生存者などいるはずのない裏路地の先に、その庭はあった。

崩れかけた家々に囲まれた小さな庭。

そこに、雲が落ちてきたかと思うほど全身白い少女がいた。


「あれ? 軍人さん?」


俺は呆気に取られ、慌てて銃を構えた。


「……何者だ。ここで何をしている」


「エルのこと? エルはエルだよ! あのねあのね、ここでピクニックをしてるの!」


花も咲いていない庭で、ピクニックをしている少女だった。

それが、俺とエルの始まりだった。



それから毎日、俺は「観察」という建前で彼女の元へ通った。


「あ! 軍人さん、今日も来てくれたのね!」


「……ただの生存確認だ。今日はお前、何をしている」


そこは、鉄と血の臭いが充満する戦場から逃げられる唯一の聖域だった。

彼女はよく「ピクニック」をしていた。けれど、そこにはサンドイッチが入っているカゴもなければ、瑞々しい果物もない。


ただの瓦礫の上に、彼女は楽しそうに座っているだけだ。


俺はそれが「異常」だと気づきながらも、その幻影に縋りたかった。



ある日、彼女は誇らしげに言った。


「今日は軍人さんに、花の冠をあげる! おかあさんがね、頑張った人には冠をあげるんだよって言ってたの」


彼女が差し出したのは、泥にまみれた枯れ草……のように見えた。だが、俺がそれを受け取った瞬間、それは鮮やかな色彩を持つ美しい花へと変わった。


「……ありがとう、エル」


今夜は、とても綺麗な夢が見れそうだ。



◇◇◇◇


俺は、昨日エルから貰った花を胸に挿して戦場に向かう。 激化する攻勢。これが最後になるだろうという予感があった。


「見てください、軍曹。この花、道端で拾ったんですよ、綺麗じゃないですか?」


なんだか今日はとてもいい気分になり、いつも口が悪い軍曹に自慢してしまった。


「一兵卒、何言ってやがる。そこに刺さってんのは、ただの汚ねえ枯れ草だぞ。頭まで腐ったか?」


軍曹の言葉は、もう俺の耳には届かなかった。


突如、鼓膜を震わせる爆音。衝撃。 気がつくと、俺は冷たい土の上に横たわっていた。視界が急速に赤く染まっていく。


「あぁ……」


腹部から流れる熱いものが、地面を濡らす。

薄れゆく意識の向こう側で、軍靴の足音だけが聞こえた。俺の脇を通り過ぎていく、敵国の兵士だ。

彼らは、俺の胸元に刺さっていた「枯れ草」に気づきもしない。

重い足が、無慈悲にそれを踏みにじった。 ぐしゃりと、泥の中に沈んでいく「花」。


けれど、俺の目には違うものが見えていた。 踏みつけられた場所から、光が溢れる。


霞む視界の先で、白い少女が、あの庭で笑っていた時と同じ優しい顔で俺に微笑みかけていた。


「よく、頑張ったね」


彼女の声が聞こえた気がした。 俺は、泥にまみれた手を空へと伸ばし


――そのまま、動かなくなった。

後には、名前も知らない兵士に踏みつけられた、一輪の枯草だけが残された。


最後まで読んでくださりありがとうございます!

この物語は、軍人と白い少女のステッカーから着想を得て書きました。

少しでも印象に残る物語になりましたでしょうか。

感想などもいただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ