灰色の戦場で、君だけが笑っていた―――それが、死にゆく俺の見た幻影だとしても
初投稿です!戦場での兵士と少女のお話になります。少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
俺は、町だった平野に立っている。
かつてここにあった人々の営みは、俺の国と、目の前の敵によって踏みにじられ、平野は灰色の死体へと変わった。
俺は軍の下っ端。
代わりはいくらでもいる一兵卒だ。
そんな捨て駒の俺が、今日まで生き残ってこれたのは、ただの幸運か、あるいは呪いか。
「おい、一兵卒。行ってこい」
上官の声に応じ、俺はいつものように廃墟の町へ巡回に向かう。
人員不足で、いつも単独行動だ。 静まり返った抜け殻の町を歩く。
いつも通りの、抜け殻の死んだ景色のはずだった。
「ラー、ラララ~」
場違いな歌声が聞こえた。
戦場のど真ん中。生存者などいるはずのない裏路地の先に、その庭はあった。
崩れかけた家々に囲まれた小さな庭。
そこに、雲が落ちてきたかと思うほど全身白い少女がいた。
「あれ? 軍人さん?」
俺は呆気に取られ、慌てて銃を構えた。
「……何者だ。ここで何をしている」
「エルのこと? エルはエルだよ! あのねあのね、ここでピクニックをしてるの!」
花も咲いていない庭で、ピクニックをしている少女だった。
それが、俺とエルの始まりだった。
それから毎日、俺は「観察」という建前で彼女の元へ通った。
「あ! 軍人さん、今日も来てくれたのね!」
「……ただの生存確認だ。今日はお前、何をしている」
そこは、鉄と血の臭いが充満する戦場から逃げられる唯一の聖域だった。
彼女はよく「ピクニック」をしていた。けれど、そこにはサンドイッチが入っているカゴもなければ、瑞々しい果物もない。
ただの瓦礫の上に、彼女は楽しそうに座っているだけだ。
俺はそれが「異常」だと気づきながらも、その幻影に縋りたかった。
ある日、彼女は誇らしげに言った。
「今日は軍人さんに、花の冠をあげる! おかあさんがね、頑張った人には冠をあげるんだよって言ってたの」
彼女が差し出したのは、泥にまみれた枯れ草……のように見えた。だが、俺がそれを受け取った瞬間、それは鮮やかな色彩を持つ美しい花へと変わった。
「……ありがとう、エル」
今夜は、とても綺麗な夢が見れそうだ。
◇◇◇◇
俺は、昨日エルから貰った花を胸に挿して戦場に向かう。 激化する攻勢。これが最後になるだろうという予感があった。
「見てください、軍曹。この花、道端で拾ったんですよ、綺麗じゃないですか?」
なんだか今日はとてもいい気分になり、いつも口が悪い軍曹に自慢してしまった。
「一兵卒、何言ってやがる。そこに刺さってんのは、ただの汚ねえ枯れ草だぞ。頭まで腐ったか?」
軍曹の言葉は、もう俺の耳には届かなかった。
突如、鼓膜を震わせる爆音。衝撃。 気がつくと、俺は冷たい土の上に横たわっていた。視界が急速に赤く染まっていく。
「あぁ……」
腹部から流れる熱いものが、地面を濡らす。
薄れゆく意識の向こう側で、軍靴の足音だけが聞こえた。俺の脇を通り過ぎていく、敵国の兵士だ。
彼らは、俺の胸元に刺さっていた「枯れ草」に気づきもしない。
重い足が、無慈悲にそれを踏みにじった。 ぐしゃりと、泥の中に沈んでいく「花」。
けれど、俺の目には違うものが見えていた。 踏みつけられた場所から、光が溢れる。
霞む視界の先で、白い少女が、あの庭で笑っていた時と同じ優しい顔で俺に微笑みかけていた。
「よく、頑張ったね」
彼女の声が聞こえた気がした。 俺は、泥にまみれた手を空へと伸ばし
――そのまま、動かなくなった。
後には、名前も知らない兵士に踏みつけられた、一輪の枯草だけが残された。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
この物語は、軍人と白い少女のステッカーから着想を得て書きました。
少しでも印象に残る物語になりましたでしょうか。
感想などもいただけたら嬉しいです。




