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追放騎士と銃装ゴブリン傭兵団  〜聖女とはじめる辺境の永世中立国〜  作者: ふろんちあ
出会いの章

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第七話 治癒師ライラの温泉ライフ2

「汝にエセリエルの加護あらん、治癒の奇跡を今ここに……」


 ポゥンと淡い光がライラの手に灯り、瞬く間にアロの傷を塞いだ。


「遅くなってごめんね、アロ」


 アロはベロリとライラの顔を舐め、その亜麻色の髪に顔を擦りつける。


「やん……アロったら」


「いててて……おはよう、ライラ」


 今朝はヴィクトルがなかなか起きないと思ったら、体を痛めていたようだ。


「ヴィクトル様、どこかお怪我を?」


「いや、筋肉痛だ。というか疲労感がハンパない」


「あ……活性化の反動ですね。やはり強すぎたようです」


「そのようだ、アロは平気みたいだがな」


 ブルルンとアロが得意げに鳴いた。


「しかし治癒とは大したものだな。他にどんなポーションが作れるんだ?」


「ごめんなさい。治癒の水と、活性の水だけです」


 家の方針とは言え、もっと色んなポーションを学んでおくべきだった。


 特に病に効くと言う抗生の水や、昏睡の水はきっとアムズフェルト家の役にたっただろう。


「何も謝ることはない。教会の庇護も無いバニシュにとっては、治癒だけでもありがたすぎて涙が出る」


「よかった……」


「ともあれ今日は療養だな。風呂にでも行くか」


 その言葉で、自分が昨日落馬してから身を清めていない事に気がついた。


「あの……ヴィクトル様。ご一緒してもよろしいですか?」


「あ……うん」


 ブランドルがニコニコしながら、着替えを用意した。


 ――カポーン


 今日は何匹かメスゴブリンが先に入っていた。彼女らは肌を見られても特に気にしないらしい。


 スラッとして筋肉質な体型は、少しうらやましい。ライラは自分の体の肉付きの良さが少し悩みだった。


「こうして見ると、まるで普通の女性のようですね」


「そうだな……実際、そういう目的で奴隷にする奴もいるらしい」


「そんな……子どもはどうなるんですか?」


「さぁな。だが女ゴブリンにとって子どもは宝だ。無理やり引き裂こうとすれば、強く抵抗するだろう」


「そう……ですよね」


 メスゴブリン達が子ども達を大事そうに湯船で洗っている。


「ゴブリンにとって女は宝で、ボスの所有物。そして女には子どもが宝、子どもにとっては母が全て。彼らはそう言う社会で成り立っている」


「では、この砦のメスゴブリンは全てヴィクトル様の物ですか?」


「扱いとしてはそうだな。オレはゴブリンのボスとして彼女らに庇護を与える義務がある。そして優秀なゴブリンには番を許す」


「ヴィクトル様は……その、召し上がられないので?」


「召しあがるって……」


 どうやって聞こうかと考えて、妙な物言いになってしまった。ライラはヴィクトルの視線に恥ずかしくなり湯船深く顔を沈めた。


「まぁ、そういう事はしないな。これでもアムズフェルトの跡取りだ。初めては正妻と決めている」


「まぁ……!」


「なんだ、笑うなよ」


「笑いませんよ」


「笑ってるじゃないか……先に出るぞ」


 笑ってはいないのだが、つい嬉しくてニマニマしてしまった。ぶくぶくしてる間に、ヴィクトルの姿が白煙に消えた。


 少し間を空け、火照った体を外気で冷ましてから、ライラももどった。


 着替えの時、すれ違うオスゴブリンにジロジロみられたが、できるだけ気にしないようにした。


 ――


「坊ちゃん、報酬と買取りの伝票はありますかな?」


 丸眼鏡をつけたブランドルが椅子で休むヴィクトルに尋ねた。


「あー……買取りの方はある。報酬は予定通りだからそのまま受けとった」


「買取りはちゃんとその場で精査されましたか?」


「……したような気がする」


「してませんな。それでは伝票を見たところで勘定をごまかされてもわかりません」


 はぁ、と爺のため息がもれる。


「しょうがないだろ……苦手なんだから」


「ヴィクトル様は算術が苦手なんですか?」


「算術というか……桁が多いと数が数えられなくなる」


「それは……なぜでしょう?」


 不思議だ。話していてもヴィクトルは賢い。数が数えられないなんて違和感しかない。


「さんじゅうって数字で、36枚になる意味が全然わからん」


「それは12で桁が上がるからです」


「いや、わかってるんだが……さんじゅうは30枚って頭が勝手に変換するんだ。100までなら何とかなるが、それを越えるともうダメだ」


「小さい頃はちゃんと計算できておったんですがな……」


 聞く限り、ヴィクトルは頭の中で計算する時無意識に十進法を使っているようだ。


「異国では十進法を使うと聞きますし、それで外交上の問題が起きることも多いそうです。ヴィクトル様はどこかでその知識を身につけられたのでは?」


「坊ちゃんは幼い頃身体が弱く、本の虫でしたから、無くはなさそうですな。妙に博識ですし」


「これは博識というか、あの時の薬の副作用だろ」


「あの時?」


「あまり思い出したくもないのですが……」


 ブランドルの顔が暗く沈んだ。


「まだ母上が生きてた頃、オレは顎が動かなくなる病にかかった事がある」


「……破傷風(ロックジョー)!?」


 抗生の水(ミアズマ・ポーション)が世に出るまで、治療法が存在せず死に至る病と言われた、今もなお恐るべき病だ。


「アムズフェルト総出で必死に探しても、抗生水が手に入らず、とうとう坊ちゃんは全身が動かなくなってしまいましてな」


「動けなくても意識はあったからな。メディーサの呪いで体が石になったら、こんな感じなのかと思ったよ」


「ど、どうやって助かったんですか?」


「抗生水の代わりに、ルーナ・ナイトと言う黒髪の薬師が見つかりまして、そのものが持ち込んだ薬で一命を取り留めました」


「破傷風を治すなんて……凄い薬師ですね」


「ただ、その薬は副作用が強く末期症状でもあったため、仮に助かっても何が起きるかわからないと言われましてな」


「それ以来、知らない言葉が不意に浮かんだり、動物やゴブリンと意思疎通がしやすくなったんだ」


「そうだったんですか……じゃあ算術も」


「あの薬のせいかもな」


「でしたら、私がヴィクトル様のかわりに計算いたします!」


「ライラは算術できるのか?」


「……えっと、大きい数でも簡単な計算なら大丈夫だと思います」


 正直、算術自体はあまり自信がない。


「……メディスン家は、多額の借金を抱えていたそうですな」


 ギクッ!


 ブランドルは荷の中から一巻丸ごと購入した薄水色の布を取り出し、ライラにジト目を向けた。


「お二人とも……金銭感覚が貴族のままでは困ります。ライラ様には一度、きっちり算術を学んでいただくとしましょう」


 その後は一日、療養という名のお勉強会になった。


 ――


 遅くまでアムズフェルト家の内情を確認していたライラは、その密かな危険性に指を震わせていた。


「……ゴブリンが、一年でこんなに増えるなんて……」

ちょっとだけ出てきたヴィクトルのギフト『現代日本知識の断片』と『10進法の呪い』の秘密。


作者ページより、前作『魔女の領主さま』をお読みいただくと、世界観がさらに深まります。

興味があれば是非そちらもご覧ください。


もちろん未読でもこのままお読みいただけます!

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