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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

仁義なき地政学・番外編 白耳義組と金剛組の植民地盃

作者: 叡愛禅師
掲載日:2025/11/26

「何じゃいボケぇ!

景気よう玉ぁ吐き出さんかい!」

呪詛の言葉を吐きながら、備え付けの灰皿にタバコを押し付ける。


パチンコ『パーラー金剛こんご』で、白耳義べるぎー組のレオポルド組長は新台、『CR象牙物語』の台に向かっている。

バチバチと小気味よく玉が釘を打つ音が鳴り響く中、画面がフッと暗転する。

「ポォォォオ……」という角笛の音と同時に、液晶の中央に象の精霊がゆらりと姿を見せる。

パァン、パァン、と銃声のSEに合わせて、精霊の手の上の数字が切り替わってゆく。……両脇に7が揃う。


「オッ、リーチじゃい!

こりゃぁ……アツいやっちゃわい!!」


再び画面が暗転し、リーチ専用のBGM、『白き牙の道』が軽快に流れ出す。

切り替わった画面の中では、象の精霊の加護を受けた狩人、『スタンリー』が、猟銃を構える。

──その視線の先には、土煙をあげて突進してくる白象。

レオポルド組長は、拳を握りしめる。

……おっしゃ、白い象やないかい。この演出の意味するところ……そりゃ、『激アツ』なんじゃけぇ!そん勢いでタマぁ取って来んかい、スタンリー!

点滅する画面。

期待が最高潮に達したところで、画面が真っ白になり、銃声のSEと共にBGMが止まる。


ゆっくり画面が戻ると……そこには、象に踏みつけられて目を回しているスタンリーがぶっ倒れていた。

両端に7、中央に象の顔を表示したリールが、一呼吸ののち、虚しく再回転を始める。


「ぬぁッ……!なんじゃいワリゃ!偽リーチかい!

おどりゃスタンリー!ワリゃチャカも碌に触れんのかいボケぇ!

下手ぁ打ちよって、ケジメ取らしたるけぇ、覚悟せぇ!」

レオポルド組長の鉄拳が台にめり込む。筐体のガラスにヒビが入る。

周りの博徒たちは本職ヤクザの狼藉に恐れ慄き、足早に店を後にする。


レオポルド組長は開店から居座っているのだが……まだ大当たりは来ない。

懐の財布の中の札束もだいぶ薄っぺらくなってきている。


レオポルド組長の狼藉に、制服を着たバイトがすっ飛んでくる。

こめかみに青筋を立てた組長は、バイトの胸ぐらを引っ掴んで恫喝する。

「おいコラァ!店長呼んでこんかい!ワレ、舐め腐っとんのかい!

……早うせんかいオラァ!」

レオポルド組長の怒号が飛ぶ。本職極道の怒気に当てられ、バイトの店員が泣きべそをかきながら店の奥にすっ飛んでいく。


しばらくすると、顔を引き攣らせた店長が冷や汗を垂らしながら現れる。

「あのォ……親分さん。他のお客様のご迷惑になりますんで、なんとか、こらえてもらえんじゃろうかのぉ……。」

青い顔をした店長がレオポルド組長に懇願する。


「何を舐め腐ったこと抜かしよるんじゃいコラァ!

わしゃ朝から3000万フランも突っ込んどるんじゃい!本職相手に遠隔操作やりよるたぁ、覚悟は決まっとるんじゃろうなぁ!おぉ?

どう落とし前つけるんじゃいワレェ!」

そしてレオポルド組長は、懐から匕首を取り出すと、鞘を抜き払う。

白刃が蛍光灯の光を反射する。

店長はヒッと息を呑む。


「コラ、ワレェ!ここでエンコ詰めぇ!ケツ持ってやっちょる極道舐めくさりよって、容赦せんどオラァ!」

店長は、泣きながら膝を折り、椅子の上で無理やり指を詰めさせられた。

そして台の設定を変更させられ、それ以降はレオポルド組長は大当たりを連発した。


「ガハハハ、やりゃぁできるやないかい!

……また明日も打ちに来ちゃるけぇ、よろしく頼むわ!」

景品を山ほどかかえ、レオポルド組長は店を後にした。


*****

「いらっしゃいま……ゲェっ!

ああ、失礼しやした。こりゃ白耳義べるぎー組さんでしたかい。

……ささ、どうかこちらの台へ……。」


白耳義べるぎー組の若頭代行、ワイスが『パーラー金剛こんご』を訪れた。

白耳義べるぎー組の代紋バッジに目を落とした店員の顔が、なぜか引き攣っている。

そして通された『白耳義べるぎー組専用室』の扉の向こう。

ワイスは、目を疑った。


白大理石の床。

ビロード貼りの壁。

天井からはシャンデリア。

黒革張りの上質なソファーの前に鎮座する、金縁の枠に嵌められたパチンコ台。


白耳義べるぎー組の代紋を彫金した額の前で、こわばった顔の店員が盆に高級シャンパンを載せて立っている。

その横にはずらりと、燕尾服やドレスに身を包んだ数十人の店員が整列している。


「なんじゃこりゃあ……接待キャバクラか?」


困惑しつつも、 『CRゴムの黙示録』の台に座らされる。

チャッカーまでビッシリと釘が打たれ、何をどうやっても玉がチャッカーに吸い込まれてゆく。

そして、5回ほどリールを回すと、いきなり大当たりが出た。

ワイスの周りには、次々と漆塗りに金蒔絵のドル箱が積み上げられてゆく。


……なめとんか!こがぁ大盤振る舞いしよったら、この店のシノギが潰れてしまうがな!

たまらずワイスは店長を呼ぶ。

「おどりゃえらい景気がええのォ。……いくら何でも、景気良すぎじゃろうて。ワリゃ、シノギ大丈夫なんか?

……おん?それよかその指、どうしたんじゃい!」

青い顔をした店長に、ワイスは問いかける。

店長の左手は、小指のあたりが包帯でぐるぐる巻きになっている。

指の長さが足りていない。


店長は答えにくそうにモジモジしている。

……こりゃぁ、筋のモンが噛んどるかもしれんのォ。

ワイスは、ただならぬ様子に、極道の影を感じる。


「あぁ、心配すんない。おどれんとこはウチがケツもっちょる義理先やろがい。

一宿一飯の恩義じゃけぇ、何かあったら身体懸けるんが極道っちゅうもんじゃろがい。

それよか、エンコなんぞ詰めよって、ワレ、どこの筋のモンにやられたんじゃい。

ことによっちゃ、カエシ入れてやらにゃあならんけぇのぉ。」

ケツを持つ義理先が他所の筋に襲撃され、店長に危害を加えられたとあれば一大事だ。白耳義べるぎー組の沽券にもかかわるので、ワイスは抗争を覚悟した。


「あのォ、こりゃ、なんというか……お宅さんの親分さんに……。」

……はいィ?

ワイスは仰天した。


話を聞くと、それはなんというか、酷かった。

レオポルド組長はここのところ毎日のように『パーラー金剛こんご』に顔を出しているとの話なのだが……。


大当たりが出ないと猛烈に激怒され、殴る蹴るの暴行を加えられるので、店の損益など考える余裕もなく大甘設定にしてやる必要がある。

お陰で店は大赤字だ。


そして出玉が渋いと、レオポルド組長に指を詰めさせられる。

店長の他、何人か指を詰めさせられたのだという。


ヤクザの相手をさせられるのにストレスと身の危険を感じ、店員も多く辞めていったのだという。

このままでは、店が潰れてしまう。

店長は、涙ながらに懇願する。


ワイスは青い顔になり、その場に跪いて床に頭をつける。

「店長!……ほんに、ウチの親分がご迷惑をおかけした!この件、組に持ち帰って必ず始末つけますけぇ。

ちいと、辛抱してつかぁさい!」


ワイスは踵を返して店の外に止めてある高級車に乗り込み、大急ぎで本家事務所に駆け戻った。

……しかし、少し遅かった。

ヤクザの世界、噂は光より早く伝わる。

ワイスの高級車が急ブレーキをかけて本家にたどり着くのと入れ違いに、このレオポルド組長のカタギへの非道の行いに対するイヤミを言いにきた独逸どいつ組の若中の車が事務所を後にして行った。


*****

「おやっさん、こりゃ一体どういう了見ですかい?

アンタがこがぁえげつない真似しよったけぇ、他所の筋からもウチの代紋、随分と安く見られとるじゃろ?

……ほんに、さっきの独逸どいつ組の外道、好き放題抜かしよったんじゃけぇ!わしゃ危なくチャカ弾いちゃうとこじゃったわい!」

怒りに肩を振るわせながら、若頭のシュルマンスがレオポルド組長に詰め寄る。

レオポルド組長の視線が泳いでいる。


「ワレぇ、シュルマンス、ちぃとまぁ、落ち着かんかい。

アレがナンボのもんじゃい、ちぃとどついてヤキ入れちゃっただけじゃろうがい。カタギがヤクザに盾付きよったら、そりゃぁのぉ……。」

レオポルド組長は、なんとも歯切れが悪い。


「ブチブチやかましいわい!ほいで、どうケジメつけられるんじゃい、おやっさん!

ウチの組がカタギ相手に犬畜生にも劣る外道の行いしくさったいうことで、近所の筋のモンがギャンギャンと喚きよるんじゃけぇ!」

シュルマンス若頭の追及は手厳しい。

極道が、カタギ相手に指を詰めさせるなどの暴力を振るったのだ。


白耳義べるぎー組のシマは、仏蘭ふらんす組や独逸どいつ組などの広域指定暴力団のシマに隣接している。これらの組はここぞとばかり外道として白耳義べるぎー組の行いを糾弾してきている。


そして、同じく広域指定暴力団である英吉利いぎりす組や亜米利加あめりか組は、『パーラー金剛こんご』での白耳義べるぎー組の話を耳にするや、嬉々として尾ひれの付いた噂を広げた張本人だ。


白耳義べるぎー組を袋叩きにするかのような広域指定暴力団の圧力。

裏にあるのは、利権争いの下心だ。……付け込まれるような隙を与えるのはマズい。


「……ほんにワレ、親に向こうて何じゃいそのクチの聞き方は……。

あいわかった。そんなら、『パーラー金剛こんご』のケツモチ、降りちゃるわい。

あがぁ小ぢんまりした義理先、仏蘭ふらんす組の外道共にでもくれてやりゃよかろ。

じゃけんどワシもだいぶアソコの貸玉機にゼニ突っ込みよったんじゃけぇのぉ。ワレ、ソッチのケジメはどう付けよるんじゃい?あァ?」

子分に叱責され、なんともバツの悪いレオポルド組長は少しスネて投げやりに言う。


「おやっさん……。なんでアンタはそう極端なことを言いよるんですかい!

あそこは……ウチのシノギの救世主じゃろうがい!」

白耳義べるぎー組は、工業系のフロント企業をシマに多数抱える。

しかし、ブツを作るには、材料がいる。ところがその材料は、白耳義べるぎー組のシマのどこを掘っても出てこない。鉱物資源やゴムなどの原材料は、白耳義べるぎー組にとって喉から手が出るほど欲しいものなのだ。


ところで『パーラー金剛こんご』、大当たりの景品でゴムの塊や、金や銅の延べ棒なんぞの資源が出てくることがある。

換金しても良いが、これをシマに持ち帰ってフロント企業に流してやれば、莫大な利益を生み出すシノギとなる。


ついでに言えば、これらの資源は仏蘭ふらんす組や独逸どいつ組にとっても喉から手が出るほど欲しいブツだ。

白耳義べるぎー組がこのブツをこれらの組に供給したり、逆に絞ってやると脅迫することで、これらの組を強請ってやることができる。

チャカの在庫も若衆も周りの広域指定暴力団と張り合うには心許ない白耳義べるぎー組にとって、『パーラー金剛こんご』の景品はこれらの組と対等にナシをつける取引材料となりうるのだ。


それに……。

シュルマンス若頭は逡巡する。

あそこでたまに出てくる『ウラン』っちゅう景品。使い道はよう分からんが、何やら第六感がビンビン鳴りよるんじゃ。デカいシノギに化ける予感がするんじゃけぇ……。


──結局白耳義(べるぎー)組は、レオポルド組長を謹慎とし、『パーラー金剛こんご』への立ち入りを禁止した。

そしてワイス代行を組長とした二次団体の『金剛こんご組』を旗揚げ。

『パーラー金剛こんご』の店長、アンジュに盃を下ろして若衆とし、金剛こんご組のフロント企業としてシノギを張っていくことになった。


*****

料亭 白牙苑の奥座敷。

床の間には白耳義べるぎー組の代紋がかけられ、三宝には二匹の鯛が載せられる。

紋付袴に身を包んだシュルマンス若頭が、媒酌人として畳の上に正座し、両の拳を畳につけた体勢で、厳かに口上を述べる。

「これより、古式の作法に則り、白耳義べるぎー金剛(こんご)組 植民地盃の儀を執り行います。」


三宝には白磁の徳利と盃。

シュルマンス若頭は、大ぶりな仕草で徳利を傾け、盃に清酒を注ぐ。

ワイスの前に、盃の載った三宝が差し出される。


「この度親となられる、ワイス殿。

この盃は、子となられますアンジュに下げ渡す盃。

任侠の筋を通して棟梁として子分の上に立ち、資源を持ち帰って本家への筋を通されるお覚悟をすでにお持ちとは存じますが、その覚悟の程を今一度確かめられ、肚定まりましたならば、お心の分だけお飲みください。」

太くよく通る、シュルマンス若頭の声が座敷の隅まで響き渡る。

座敷の奥に二列になって整列して座る、来賓の視線がワイスに集まる。


ワイスはゆっくりと三宝に手を伸ばすと、両手で盃を取り、一口、口をつける。

そして静かにその盃を三宝に戻す。


「続きまして、子となられますアンジュ殿。

任侠の道は厳しい掟の道にございます。ワイス親分の下、代紋のために身体をかけて資源を差し出し、任侠の掟を守られるお覚悟はお持ちと存じますが、今一度その覚悟の程を確かめられ、立派な男となる決意を固められましたら、その盃を一気に飲み干し、お納めください。」


膝の五寸先に差し出された三宝の上の盃に、アンジュは手を伸ばす。

ワイスの顔に一瞬目をやると、その盃に口をつけ、一気に喉に流し込む。

そして半紙を取り出し、盃を包むと、懐に収める。


「盃の筋を受け、子分となられましたアンジュ殿。

親分の前にお進みください。

そして、『親分、よろしくお願い申し上げます』と、ご挨拶申し上げてください。」


シュルマンス若頭に促され、アンジュはワイスの前に出ると、畳に頭をつける。

「親分、よろしくお願い申し上げます。」

アンジュの芯の通った声が、座敷に響き渡った。


──かくして、『パーラー金剛こんご』は晴れて白耳義べるぎー組の二次団体のフロント企業となったのであるが……。

確かに、レオポルド組長がやったような、指詰めの強制などはほとんど無くなった。

だが、これまで払わされていたミカジメ料や、出玉の便宜などが、そっくりそのまま白耳義べるぎー組への上納金に姿を変えただけだった。

カタギの従業員も、本職ヤクザの上司に睨まれ、肩身が狭い。


「コラぁ!アンジュ、ワレ、アガリはこんだけかい?おォ?

一端の極道がこがぁ情け無ぁモン持ってきよって、おどりゃウチの代紋背負っとる自覚があるんかい!あァ?」

ワイス組長が振り下ろした灰皿が、アンジュの頭をカチ割る。

指詰め等の常軌を逸した制裁は確かに無くなったのだが……このような鉄拳制裁まで無くなったわけではない。


頭を押さえてうずくまるアンジュに、ワイス組長は吐き捨てる。

「……ったく、わりゃ詰めが甘いんじゃい!絞れるだけ絞ってやらんかい!

わしゃちィと本家の義理かけに行ってくるけェのォ。表に車回しとかんかい。」


ワイス組長が出て行くのを見届け、アンジュはボソっと呟く。

「あぁ……上納金がキツいんじゃ。どっかにウマいシノギはないかいのぉ……。」

アンジュのため息が、夜のホールにこだました。


補足:ベルギーによるコンゴ統治

・ベルギー王による個人統治

ベルギー王レオポルド2世は1885年から1908年まで、コンゴ自由国を個人領土として支配した。現地住民に強制労働や手足の切断などの過酷な罰が課され、天然ゴムや象牙が収奪された。レオポルド王は私財を投じて開発を進め、最終的には莫大な利益を得た。

・列強との関係

当初、英・仏・独など列強はレオポルドの支配を黙認していたが、徐々に人道的批判や利権確保の口実として介入の圧力を強めていった。

・経済的背景

ゴムや象牙、鉱物は世界市場で高値で取引され、ベルギーの経済を潤すと同時に、列強との交渉カードとしても機能した。

・統治の変化

国際的な批判が高まり、1908年にコンゴはベルギーの公式植民地となった。暴力や搾取は続いたが、個人統治時代ほどの極端な乱暴は抑えられた。

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