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第5章 揺れる歩幅

【1】迷宮再挑戦・序盤(サーシャ視点)

第1層、《旧商人層》。

昨日と同じ場所。昨日よりも奥。


サーシャは剣の柄を握り直した。

昨夜、何度も素振りを繰り返して、今日は手に少し馴染む気がしていた。


(今日は……ちゃんと、やれる)


自分に言い聞かせながら、2人の背中を追う。


通路の先、くぐもった鳴き声が響いた。


「敵。三体。奥の通路から来る」


フィオナの指が静かに指した先。

緑の肌、牙のある顔。ゴブリンたちが列になって現れる。


「正面で受ける。サーシャ、前!」


リュナの声。

サーシャは剣を抜き、前へ出た。


斬る。正面の一体。

タイミングは悪くない。けれど——


「横、回り込まれる!」


「……っ!?」


脇の死角から、別のゴブリンが飛びかかってくる。


【2】中盤・戦闘中(リュナ視点)

「そこは見ないと!」


リュナが駆け込み、ゴブリンの脇腹を斬る。

サーシャの肩に傷が走る。浅いが、彼女の顔が一瞬強張るのが見えた。


もう一体はフィオナが風で吹き飛ばし、戦闘は終わった。


だがリュナの心の中では、焦燥が燻っていた。


「……何してんのよ、あんた。突っ込むだけじゃ、前衛なんて名乗れないわよ」


サーシャの顔がこわばる。


【3】戦後・衝突(サーシャ視点)

「……だって、私は……っ」


サーシャは言葉を探すように口を開く。


「わたしだって、あなたたちみたいに、ちゃんと戦えるようになりたくて……!

迷惑かけたくて出たわけじゃ……っ」


声が震える。剣先が地面に触れて、かすかな音を立てた。


「……戦いたいのと、戦えるのは、別問題よ」


リュナの声は冷たくはなかった。

けれど、それ以上に、淡々としていた。


「命を預けるってそういうこと。できないなら、後ろに引いてなさい」


サーシャの口が何かを言いかけて止まった。

次の瞬間、彼女は剣を鞘に戻し、踵を返した。


「わかりました」


それだけ言って、背を向ける。


その背中に、誰も声をかけなかった。


 

(リュナ視点)

フィオナは沈黙を守ったまま、その場に立っている。

リュナも、ただその背中を見送っただけだった。


(言いすぎた、かも)


そう思っても、舌は動かなかった。


言葉が形になる前に、胸の奥で、何かがぐっと喉を塞いだ。


(……あれが、仲間?)


それとも、あれはまだ“他人”なのか。



初めてできた関係に、どう触れていいかわからない。

ただ、胸の奥で、何かがずれているという感覚だけが、

じわりと広がっていた。

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