第18章 焦熱の間
迷宮都市、第二階層の最奥。
足元から熱気が立ち上る洞窟状の広間——《焦熱の間》に、五人の探索者が足を踏み入れた。
「……来る」
フィオナの声とほぼ同時に、マグマの割れ目から、巨大な火竜が姿を現す。
《焦熱のサラマンダー》。
火の霊力をまとい、灼熱の鱗が光を跳ね返している。
その周囲には、溶岩から生まれたかのようなスライムの群れと、岩のように無骨なゴーレムが3体、牙を剥いていた。
「……数、多いな」 リュナが低くつぶやき、剣を引き抜く。 「前衛、サーシャとミランダ。フィオナは後方から左を抑えて。カーラはさらに後方から支援。私が中央を引きつける」
「了解」
火花が散った瞬間、戦闘が始まった。
スライムが四方から波のように押し寄せる。
サーシャが盾を振るい、前線を押しとどめる。ミランダはフィオナを一瞥したのち、無言で前へ出る。
剣が蒸気を裂き、スライムをまとめて断ち切った。
だが、数が多すぎた。
「くっ……!」
熱気で足元が揺らぎ、ゴーレムが剣を受け止めて砕けない。
フィオナの火球も、ゴーレムには弾かれる。
「火、通らない……!」
サラマンダーが咆哮すると、岩盤が震え、溶岩の裂け目が爆ぜた。蒸気と火花が散り、空気が焦げる。
リュナが中央のサラマンダーと対峙し、氷の短剣を投げ放つも、火炎の防壁が弾き返す。
「こっちもダメ……!? 魔法耐性が高すぎる……っ」
次の瞬間、サーシャが一歩踏み込むが、その瞬間——
「《フレイムバースト》!」
フィオナの魔法が、わずかにずれ、爆発がサーシャの足元をかすめる。
「っ——ぐっ……!」
サーシャが膝をつき、フィオナが顔を青ざめさせる。
(……まただ。私の魔法で……誰かを傷つけた)
(昔みたいに……)
魔族の施設で、力が暴走したあの日。
叫び声と、焼け焦げる臭いが蘇る。
「フィオナ、引くな!」
リュナの声が鋭く響いた。
(怖がってるのも、躊躇ってるのも分かる。でも……それでも、私はフィオナを信じたい)
「今はお前がいなきゃ、崩れる!」
そう叫びながら、リュナはサーシャに駆け寄ると手を翳す。
「光よ、友の傷を癒せ——《ヒーリング》!」
サーシャが荒く息を吐きながら頷いた。
「……ありがと。でも、また守られちゃったな」
(また守られた。……でも、今はそれでもいい。何度でも立ち上がる。あたしの盾は、皆を生かすためにある)
サラマンダーの咆哮とともに、再び火壁が広がる。
リュナが叫ぶ。「退く! 一度態勢を立て直す!」
五人は後方の岩陰に集結し、一瞬だけ戦線を離脱。
その間もスライムが迫る中、フィオナは壁にもたれ、肩で息をしていた。
(足が……熱で震えてるんじゃない。これは、あたしの……恐怖だ……でも、ここで止まったら……みんな、燃えてしまう……この魔法が、誰かを傷つけるためじゃなく、救うためなら……)
拳を握りしめ、唇を噛む。
「……氷の槍よ、我が敵を穿て——《アイスジャベリン》」
放たれた槍は蒸気の中を裂き、灼熱にさらされながらもゴーレムの関節部へ突き刺さった。 蒸気が爆ぜ、岩肌が軋む。
「ミランダ、今!」
「任された!」
ミランダは背後から、フィオナの背をかばうように滑り出て、剣を横に走らせた。 ゴーレムの膝が砕け、カーラの矢が火花と蒸気をすり抜け、まるで“迷いを断つ一射”のように心核を正確に貫いた。
「リュナ、こっちは片付いた!」
リュナは剣を掲げて応じる。「今だ、仕掛けるよ!」
「今度は、ちゃんと守るよ!」 サーシャが膝を立てて火壁へと突進した。 (盾は立ち止まっちゃいけない。前に進む、それだけで……仲間を守れる)
その盾が火の壁を割った瞬間、まるで溶岩の風を切り裂くように、空気が一変する。
サラマンダーが咆哮しながら炎を吐く。 サーシャが真正面で受け止めたその後方から——
「いっけえええええええっ!!!」
リュナが光を纏った剣で喉元を一閃。 フィオナの氷がその傷口を凍らせ、ミランダの刃とカーラの矢が同時に心臓部を深々と突いた。
轟音とともに、焦熱のサラマンダーは崩れ落ちた。
——静寂。
残ったのは、瓦礫と煙、そして五人の息遣い。
フィオナはまだ拳を握ったまま、唇を震わせていた。
(……あたしは、本当に、いてもいいの?) (また、誰かを傷つけた。もう二度と、そんなことはしたくなかったのに……)
視線を落としたまま、フィオナがそっと口を開いた。 「……ごめん。サーシャ、魔法、かすっちゃって……」
サーシャは傷の残る腕をさすりながら、にかっと笑った。 「いいって。痛かったけどさ、それより——守ろうとした気持ちは、ちゃんと伝わってたよ」
フィオナの目が、かすかに見開かれた。
リュナも静かに言葉を添える。 「フィオナの魔法がなけりゃ、ゴーレムは止められなかった。……怖がる必要なんてない」
「……私、こわかった。力を使うのも、誰かと戦うのも。でも……いま、あたしがいてよかったって思えたの、初めてかもしれない」
ミランダが一歩近づいて、短く言った。 「それなら、それを信じ続けなさい。戦いでの後悔は、前に出て償うしかない」
カーラも目線を避けながらぽつりと呟いた。 「……あんたは、あのとき逃げなかった。それだけで、十分だよ」
フィオナの目元に、ようやく静かな涙が浮かんだ。
(怖かった。でも、今は——) (この場所に立てていることが、嬉しい)
パラメータのイメージ
リュナ LV12
HP162 MP162
STR:54
MAG:54
スキル、魔力
<剣:S><光:S><風:S><耐性:風S 光S 闇S 猛毒S 睡眠S 麻痺S 魅了S 石化S 即死S>
<剣と魔法の2回行動>
攻撃力:138 防御力:22
サーシャ LV12
HP:384
STR:128
MAG:0
スキル、魔力無し
攻撃力:138 防御力:45
フィオナ LV12
HP144 MP183
STR:48
MAG:61
スキル、魔力
<杖:A><火:S><氷:A><風:B><土:A><光:D><闇:S><耐性:火S 氷A 風B 土A 闇S 猛毒S 睡眠A 麻痺A 魅了S 石化S 即死S><魔法2回行動>
攻撃力:85 防御力:18
ミランダ LV40
HP396 MP132
STR:132
MAG:44
スキル、魔力
<剣:B><氷:D><風:C><耐性:風C 土C 麻痺C 魅了B>
攻撃力:266 防御力:49
カーラ LV40
HP342 MP264
STR:114
MAG:88
スキル、魔力
<弓:B><火:C><氷:C><耐性:土C 睡眠B 魅了C>
攻撃力:257 防御力:37
サラマンダー
HP2000
攻100 防40
<氷に弱い 耐性:睡眠S 麻痺S 魅了S 石化S 即死S>
ゴーレム
HP500
攻50 防40
<魔法無効 耐性:睡眠S 麻痺S 魅了S 石化S 即死S>
スライム
HP50
攻50 防200