表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/26

第16章 第二階層の果て (挿絵あり)

迷宮都市カルツァレア、第二階層終盤。

湿り気を帯びた岩壁と、蒸気混じりの鉱塵が混ざる狭道を、五人の影が静かに進んでいた。


先頭には、巨躯のサーシャ。

そのすぐ後ろにリュナ、やや離れてミランダ。

後方にはフィオナとカーラ。

五人の隊列は、自然に“守り”と“監視”が混ざった編成になっていた。


リュナは、歩きながらふと小さく息を吐いた。

(なんで私がリーダー、なんだろ)


別に誰かに指名されたわけじゃない。ただ、いつの間にか、皆が自分の言葉に従っていた。

(……違う。誰も口出ししないから、私が言うしかなかったんだ)


フィオナは他人に意見するタイプじゃない。サーシャは気遣い屋で、進行の舵取りには向かない。

だから、自分が前に立つしかなかった——それだけだ。


(でも……)


視線を後ろに巡らせる。


カーラの動きは静かで正確だ。弓を構える瞬間に無駄がない。殺意も、助けも、すべて同じ手つきで放つ。冷たいというより、淡々としている。


ミランダは無言だが、剣の扱いに迷いがない。

サーシャよりも身軽で、動きが洗練されている。

(あれだけ動けるなら、リーダーだってやれるのに)


なのに彼女たちは前に出ようとしない。

それが逆に、リュナには居心地が悪かった。

(……やっぱり、見られてるのかな)


「このあたり、魔物の気配が増してる。第二階層の終わりが近いな」


気配を感じ取り、リュナがつぶやくと、カーラが無言で頷いた。


前方から、湿った腐臭が流れてくる。

リュナは剣を半ばまで抜き、指で柄を軽く叩いた。

「アンデッドか……ゾンビかスケルトン系ね」


「こっちは任せて」

リュナが前へ出る。サーシャと並ぶ形になる。


フィオナが魔法陣を展開し、火の玉を複数生成する。


「敵、左から複数。前衛、サーシャとミランダ。中央私、後衛カーラとフィオナ」


声を出したのはリュナ。

その自然な指示に、全員が即座に動いた。


そして——


スケルトンウォリアーとゾンビの混成群が現れた。


リュナは刃に光を込め、前に出るサーシャの背を追う。


「優しき光よ、我が刃を照らせ——《ライトスラッシュ》!」


聖なる閃光がスケルトンの胴を貫き、骨が粉砕された。


「いい位置!」

サーシャが小さく声をあげ、ゾンビの群れを盾で押し返す。


その横からミランダが滑り込む。

剣の切っ先が鮮やかに振るわれ、ゾンビの頭部を一閃で断ち切った。


「……動きが重い。第二階層じゃ手応えがなさすぎる」

ミランダがつぶやく。


(口数は少ないけど、的確だ。……強い)

リュナはその一太刀に、かすかな劣等感を覚えた。


カーラが矢を引き、背後からゴブリンアーチャーの射線を潰す。

(あの人の矢は、ほんとに外さない……)


フィオナの魔法がスライム群へと放たれる。

「炎よ、溶かせ——《フレイムショット》」


粘液が爆ぜ、蒸気が充満する。


短い交戦。

気づけば五人は、会話もほとんど交わさずに敵を制圧していた。


「……終わり、だね」

リュナが剣を収め、周囲を見渡す。


「ふう……あたし、またちょっと無理してたかも」

サーシャが肩を回すと、ミランダが視線を向ける。


「無理をしてまで守るのは、仲間の信頼を奪う行為にもなる。気をつけて」


「……ありがと。気をつける。あたし、ちゃんと“守れる強さ”になりたいから」


(仲間が増えるのは悪くない……けど、見張られるのはやっぱり慣れないな)

サーシャの胸に、さざ波のような違和感が残った。


フィオナが沈黙のまま、そっと背を向ける。


(また“監視”されるんだ。今度は街で、仲間の皮を被って)

心に、小さな棘が刺さる。


(……でも、この距離感、悪くない)

リュナはふと、そう感じていた。


(最初はぎこちなかった。だけど——)


「次の区画、前方に魔力の揺れ。三体、反応」

カーラの声。


「引く?」


リュナは即座に首を横に振った。

「いいえ。行く。ここで止まったら、また“戻される”気がするから」


誰も、否とは言わなかった。


ミランダがふと、小さく言った。

「……そっちも色々事情がありそうね。無理はしないで。信頼は戦場で作ればいい」


フィオナは少しだけミランダを見て、視線を逸らした。

(……信頼。ほんとに、それが築けるのなら……)

心の奥で、長く冷えていた部分が、わずかにきしむように揺れた。


リュナもまた、その言葉に胸の奥がかすかに揺れた。


五人の歩みは、再び音を立てて迷宮の奥へと続いていった。



次の区画に踏み込んだ瞬間、空気の質が変わった。


「やっぱり……また、効かないタイプ……」

フィオナの声に、緊張が走る。


現れたのは、岩のような肌を持つゴーレムが三体。

リュナの光刃も、フィオナの炎も、表層をかすめるだけで効果が薄い。


「土の防御特化型……弱点がわかんないと、これは厄介だよ」

サーシャが唸る。


ミランダが前に出て、剣の柄を握り直す。

「なら、叩き割るだけよ」


彼女の一撃が、ゴーレムの腕を粉砕する。

カーラの矢が関節を狙って正確に穿ち、リュナが回り込みながら弱点を探る。


「——胸の中心。魔核がある!」


リュナの叫びに応じて、全員が集中攻撃。

補助魔法で力を高めたサーシャの一撃が、ついに魔核を叩き割る。


三体のゴーレムは崩れ落ち、ようやく静寂が戻った。


「……第二階層の、この奥でこれって……」


「ボスが近い」

カーラが断言する。

「この手の配置は、だいたい“門番”だ」


「……今の装備じゃ、消耗が激しすぎる」

リュナは剣を見下ろし、汗を拭った。


ミランダも軽く頷く。

「装備の調整と、戦術の見直しが必要ね」


「じゃあ、いったん戻ろっか。食料も底をつきかけてるし」


フィオナは黙って、うなずいた。


「一歩引いて、また前に進む。……それも選択だな」

カーラが最後に言い、全員が頷いた。


こうして、五人は第二階層の最奥を目前にして、いったん街への帰還を決めた。


——だが、その背後には、すでに何かの気配が忍び寄っていた。


光と影の間で揺れ続ける三人。

その焔を見定めようとする、二つの冷ややかな眼差しが——今日から彼女たちに注がれていた。


キャラ紹介

◆ カーラ

種族:人間 / 性別:女 / 年齢:30代後半 / 職業:弓使い

“鷹目のカーラ”の異名を持つ、ギルド側から派遣されたベテラン観察者のひとり。

魔族に両親を殺された過去を持つが、冷静で戦術眼に優れる。

だが、単なる監視者ではなく、三人組の「異端の可能性」を信じる心も秘めている。

挿絵(By みてみん)



◆ ミランダ

種族:人間 / 性別:女 / 年齢:20代後半 / 職業:剣士(近接前衛)

ギルド所属の前衛専門の女剣士。カーラと共に三人組のパーティに加わる。

物静かだが、観察眼が鋭く、言葉よりも行動で信頼を築こうとするタイプ。

「信頼は戦場で作ればいい」という信条の持ち主で、リュナたちにも一切の偏見を見せない。

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ