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第12章 異質の才 

迷宮第2層——蒸気のこもる鉱場の最奥。

三人は、ふたたび立ち止まっていた。


「……静かすぎる」

リュナがつぶやく。

霧に似た蒸気が立ち込め、先が見えない。

だが、その向こうに何かが“いる”気配だけは、確かにあった。


「……来るよ」

フィオナが低く呟いた、そのとき——


床が震え、奥の闇から重い足音が響いてきた。

現れたのは、高さ2メートル超の石像のような巨体。

魔力の気配はある。だが——異質だ。


「ゴーレム……!」


サーシャが前に出る。

「リュナ、フィオナ、援護よろしく!」


サーシャが斬りかかる。だが、剣がゴーレムの岩肌を弾いて火花を散らす。

「っ、硬っ……!」


フィオナが詠唱に入る。

「燃え尽きろ——《フレイム・ランス》!」


炎の槍が放たれるが、ゴーレムは微動だにしない。


「……魔法、効いてない……?」


リュナが魔力の流れを読む。

「……構造が違う。魔法そのものを遮断してるのか……」


ゴーレムが大きく腕を振り上げる。

サーシャが盾で受け止めるが、吹き飛ばされて地面を転がる。


「サーシャ!」


フィオナが前に出た。

だが、杖を構えるのではなく、自らの胸元へと両手を重ね、力強く唱える。


「揺るがぬ土よ、守りの殻と成れ——《アースシールド》」


サーシャの体に、岩の皮膜が浮かび上がる。

続けて、フィオナは燃えるような気配とともに叫んだ。


「赤き焔よ、力に宿れ——《フレアブースト》!」


サーシャの身体が一瞬赤く輝く。

「っ……な、なにこれ、腕が……軽い……っ!」


リュナが目を見開いた。

「……土で防御を、火で筋力を強化……補助魔法の同時使用……」


サーシャが吠えるように突進。

盾でゴーレムの腕を弾き、真横から渾身の一撃を叩き込む。

鈍い音と共に、ゴーレムがよろけた。


「今!」


リュナが剣を構え、接近戦へ。

サーシャが注意を引きつけ、リュナが足元を斬り裂く。

ゴーレムの膝が砕け、バランスを崩したところに、


——フィオナが、自ら前に出た。


短杖を逆手に持ち、ゴーレムの胸元へ渾身の一撃。

魔力が直接叩きつけられ、巨体が崩れ落ちる。


だが——


「……待って」

リュナが眉をひそめた。

崩れた岩の中から、再び魔力の鼓動が響く。

ゴーレムの体の一部が、自己再生を始めていた。


「核が……まだ残ってる」


蒸気にまぎれ、核の位置が判別できない。魔力の感知も乱れている。


「そこ——!」

フィオナの目が、一点を射抜くように細められる。


「右胸の奥、少し下……あれが本核」


フィオナが短く詠唱し、再び魔力を込めて突き出す。

杖の一撃が、狙いすました一点に叩き込まれた。


砕ける音。

完全に沈黙する魔力。


「……今度こそ、終わった、かな」


ゴーレムが粉砕され、蒸気だけが残った空間で、三人はしばらく呼吸を整えていた。


「フィオナ……すごい力だったな、あれ」

サーシャが笑いながら言う。


「……こういうの、“普通じゃない”って、昔よく言われたから」


静かに、ぽつりと。

リュナとサーシャが目を見合わせる。


「だから何?」

リュナが言う。

「強いことが、私たちと違うって意味にはならない」


サーシャも、頷いた。

「むしろ頼りにしてるよ、正直」


フィオナはしばらく黙っていたが、少しだけ目を伏せて、

「……ありがとう」

と小さく言った。


戦闘の緊張が解けた空間に、ほんのりとした安堵が漂う。

リュナが剣を納めながら、ちらりとフィオナを見やる。


「本当に、助かったわ。あんたがいなきゃ、たぶん私たち——」


「うん……」


フィオナは、短くそう返した。目を合わせず、小さく頷くだけ。

でもその声には、わずかに震えが混じっていた。


胸の奥で、ひとつだけ静かに残ったものがある。

(……“ありがとう”で済ませていいのかな)


力を振るうたびに、感じるこの違和感。

自分は“彼女たちと並んでいる”のか。

それとも、“ただ役に立っているから”受け入れられているだけなのか。


フィオナは、短杖を握り直す。


——まだ、それに答えは出せない。

けれど、その迷いを抱えたままでも、歩くことはできる。


「行こう」

リュナが先に立つ。


サーシャがそれに続き、

フィオナも、少しだけ遅れて歩き出した。



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