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第11章《第2層への扉》

【第2層 蒸気鉱場に向けて】


武具庫の空気は、油と鉄の匂いが混じっていた。

それは、迷宮に潜る者たちにとっての“準備の匂い”でもある。


リュナは、腰に下げた剣の柄を握りなおした。

鍛冶師いわく、かつて南方の傭兵が使っていた形らしい。

剣としては重くも軽くもない。けれど——魔力の通りが、良い。


「……これで、いいわ」


軽く振ってみる。重みは、体に馴染んでいた。


視線を横に向ければ、サーシャが大きめの盾を試している。

胸元には金属のプレート、太腿には革の補強——前よりも、守りに寄っている。


「これ、重いな……でも、慣れればいけるか……たぶん」


「無理しなくてもいいのよ」


思わず声が出た。

サーシャは振り返り、少しだけ目を丸くした。


「……大丈夫だよ。ほら、あたしスキルないしさ。せめて壁くらいにはなりたいっていうか」


軽く笑ってみせたその顔は、明るいふりをしていた。

けれどリュナには、少しだけわかる。

その言葉の奥にある、“必死さ”が。


(……無理、してるのかも)

でもそれは、サーシャのせいじゃない。

(私たちが、無理させてるのかもしれない)


あの夜、怒鳴り合って、それでも隣にいる。

それは絆だけど、同時に重荷でもあったのかもしれない。


「サーシャ」


「ん?」


「……あなた、いなくなるつもり?」


「は?」


「必死に強くなろうとする人って、時々、“消えそう”に見えるから」


一瞬、サーシャの顔から笑みが抜け落ちた。

そして、小さな声で答える。


「……それくらい、怖いんだよ。あたしが、足を引っ張るのが」


リュナは、ふと、目を伏せた。

気づいたら、口が動いていた。


「……私も、ずっと怖かったわ。誰にも頼れなくて、誰のことも信じられなくて……」


サーシャが、驚いたようにこちらを見る。


「ずっとひとりで……“ひとりでいた方がマシ”って、自分に言い聞かせてた」


リュナはかすかに笑った。


「でも——いま、あんたがそうやって頑張ってるのを見ると……なんか、私も……」


言葉が続かない。

けれどそれでも、何かは伝わった気がした。


サーシャは、そっと盾を持ち上げて、言った。


「……うん、なんかわかるよ。ありがと」


その後ろでは、フィオナが魔道具棚の前で銀のリングを手にしていた。

指先で魔力の流れを確かめるように光を通しながら、ぽつりと口を開いた。


「……サーシャの本気、あたしも見てる」


リュナが少し驚いてフィオナを見ると、彼女はそっと目を伏せた。


「無理してるのは、わかる。でも……ちゃんと、それでも守ろうとしてる。だから、」


言葉の途中で、フィオナは顔を上げる。


「リュナが、“大丈夫だよ”って言ってあげればいいと思う」


「……私が?」


「うん。サーシャ、リュナの声、すごく気にしてるよ」


不意に胸の奥が熱くなった。

リュナは一歩、サーシャの方へ近づき、ほんのわずかに息を吸い込んだ。


「サーシャ」


「なに?」


「……重くても、あんたなら、きっと動ける。盾、似合ってるわよ」


サーシャはしばらく黙ってから、照れくさそうに眉を下げた。


「……そっか。ありがとう。うん、じゃあ頑張る」


その声は、さっきよりずっと軽く、自然だった。


3人はそれぞれ、剣と盾と魔道具を手にした。

準備は整った。けれど、それ以上に——


「……行こっか、第二層」


その言葉に、2人は無言でうなずいた。


扉は、すぐそこにあった。


【第2層 蒸気鉱場の戦い】


迷宮第2層。蒸気と鉱石の匂いが混ざる、古びた採掘場のような空間だった。

足元の鉄板は錆び、壁際からは白く熱い蒸気が吹き上がっている。


「ここ……元は鉱山だったのかな?」とフィオナが呟いた矢先、

通路の奥から、乾いた金属音と湿った呻き声が混じって響いてくる。


リュナはすぐに剣の柄を握り締めた。

「来るわ。前方、二時方向——アンデッド」


蒸気の向こうに浮かび上がるのは、骨だけの兵士——スケルトンウォリアー。

その背後には、皮膚が崩れ落ちたゾンビ数体が、ゆらりと揺れながら進んできていた。


「……光よ、死せる魂を浄化せよ——《イクソシズム》」


リュナが詠唱とともに手をかざすと、白光が放たれた。

空気が震え、放射状に広がった光がスケルトンたちを直撃する。


「ギィイイイ……ッ!」


骨が砕け、ゾンビの腐肉が焼かれ、3体が崩れ落ちる。


「すご……光魔法、ほんとに効くんだ」

フィオナが小さく感嘆の声を漏らす。


だがその直後、別方向から鉄の足音が響いた。

突撃してきたのは、筋骨隆々のオーク。

背後には弓を構えるゴブリンアーチャーも見える。


「こっちはあたしに任せて!」


サーシャが素早く前に出て、体勢を低く構える。

オークの大斧が振り下ろされ——


「っ……はぁっ!」


ガキィィン、と金属の音が鳴り響く。

サーシャの盾が衝撃を吸収し、体ごと押されながらも踏みとどまった。


「フィオナ、アーチャーの位置、お願い!」

「了解——!」


フィオナが魔力を溜める。

その間、サーシャは矢を盾で受け止めつつ、間合いを維持。

「ぜってぇ通さないんだからっ!」


だが、床下からぬるりとした音が響く。

鉱石の隙間から這い出してきたのは、青白く濁ったスライム。

リュナが斬りかかるも——

「っ、効かない……?」


剣が中で止まり、粘液に絡めとられそうになる。


「リュナ、下がって!」

フィオナが詠唱を終える。


「燃えろ——《フレイム》!」


炎が放たれ、スライムに当たる。ジュウ、と焼ける音と共に、スライムが崩れ落ちた。


「……助かったわ」

「どういたしまして」


その間にサーシャがオークの隙を突き、カウンターを決める。

オークが怯んだ隙にリュナが光を纏わせた斬撃を浴びせ、とどめを刺す。


戦闘終了。

蒸気の音だけが、また迷宮に戻っていた。


「……今の私たち、悪くないわね」


リュナが小さく呟いた。


「へへっ、ね?」とサーシャ。

「次が来る前に、陣形整えよ」とフィオナ。


それぞれが、自分の役割を果たしていた。

ただの“寄り集まり”だった頃よりも——ずっと、強く。

パラメータのイメージ


リュナ LV8

HP123 MP123

STR:41

MAG:41

スキル、魔力

<剣:S><光:S><風:S><耐性:風S 光S 闇S 猛毒S 睡眠S 麻痺S 魅了S 石化S 即死S>

<剣と魔法の2回行動>

攻撃力:106 防御力:17


サーシャ LV8

HP:288

STR:96

MAG:0

スキル、魔力無し

攻撃力:106 防御力:34


フィオナ LV8

HP108 MP138

STR:36

MAG:46

スキル、魔力

<杖:A><火:S><氷:A><風:B><土:A><光:D><闇:S><耐性:火S 氷A 風B 土A 闇S 猛毒S 睡眠A 麻痺A 魅了S 石化S 即死S><魔法2回行動>

攻撃力:70 防御力:13


スケルトン

HP100

攻撃力:40 防御力:5

<光に弱い 耐性:睡眠S 麻痺S 魅了S 石化S 即死S>


オーク

HP160

攻撃力:60 防御力:10

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