第6話 お嬢様、男のワンルームに来るのですか?
「ふぅ〜もう入りませんわ」
「ひとりで5万ぐらい食ったなあんた……」
ファミリー向けでそこまで高くない焼肉屋だったのだが……もはや食った量に突っ込むのはやめよう。別世界の住人の胃袋を気にしてはならない。
「さて、胃に物も詰めましたし……」
「ゴチになりやーす!」
途中から思ったが、このお嬢……お嬢様らしからぬ態度が目立つ。言葉遣いこそ気をつけているようだが。
「そろそろ貴方の家に参りましょう」
「じゃあお会計を……は?」
「見知らぬ世界に私ひとり置いていくつもり?」
「えー……」
鋭い目つきはこちらを睨む。キレてるっつうよりは楽しそう。悪女の眼差しは拒否することを許さない様子。
「案内なさい」
「ワンルームですが大丈夫でしょうか……?」
風呂トイレ別4万。
いや、そんなことより知らない男の部屋に直行するってお嬢様大丈夫ですか?
「つべこべ言わずさっさと行く!」
「アイィッ!」
もはや主従関係は構築済みである。
またもやタクシーを召喚し、我が家へ。ドレス姿のお嬢様を見るなり、やはりドライバーは驚いた顔でわざわざ車を降りて車を開ける。
……これが平民にはできない金持ちパワーか。本物かは知らんが。
「夜なのに眩しいですわねぇ」
「現代日本を舐めんな」
「ふふ、お金の匂いがしますわ」
走ること数分、学生が多く住むマンションに到着。エレベーターで2階へ上がり、我が家へ進む。廊下の幅いっぱいにスカートを広げるお嬢は……気にしないでおこう。
「言っとくけど、学生のワンルームに期待するなよ」
「馬小屋でなければ結構」
割とタフなお嬢様のようです。
それはそれとして扉を開けてスイッチオン。玄関から窓まで見渡せるワンルームである。入ってすぐ左手に洗濯機、玄関歩いてすぐのとこに風呂、トイレ、向かいにキッチン。そして奥に居間。なんの変哲もない学生の部屋だ。
肝心のお嬢様のリアクションは、
『大きいお手洗いね』ではなく、
『まぁなんて汚い部屋なの⁉︎』でもなく、
『こんな犬小屋住めませんわ!』とかでもなく、
「……面白みに欠けますわねぇ」
シンプルにダメ出しであった。
……なぜ俺はお嬢様に部屋の批評を受けねばならんのだ。