第51話 お嬢様、覚醒しましょう
「奇跡ったって、お嬢のスキルは……」
金になりそうなものを見定めるのと、物理的に金へのルートを確保する(玉の強化による釘の変形)、確率の操作────は聖女様ありきだったな。
人心掌握を応用して、『当たるな』と命じられてるパチンコ台をどう攻略すんだ……?
「…………なぜ、私が黄金の令嬢と呼ばれるようになったか知っていて?」
「えー、っと」
────『経済を予測し、荒稼ぎするバートリー家の中でも卓越した勘を持つことから『黄金の令嬢』と呼ばれている』────
「そんな分かりきった人物紹介のことではありませんわ」
「これ以上の説明なかったし」
「あ、わかりました! 『イモ戦争』ですよね!」
「ふふ、ヨナは当事者ですものね」
「おーい、視聴者を置いてけぼりにするんじゃない」
「前日譚ですわ」
「セラ様って、すっごい安値のイモを金並みの価格まで引き上げて領地を儲けさせたことがあるんですよ!」
なんだその話…………それをアニメに入れとけよ。
当の黄金の令嬢様は思い出し笑いをしながら台の玉に触れた。
「要するに……金を見つけるのではなく金を生み出すのも、黄金の令嬢としての所以…………ならば」
金の玉たちは銀へ色褪せる。
いや違う、何かをするために……金を脱いだんだ。
俺越しに、お嬢様は聖女へ笑いかける。
「ヨナ、貴方は生きなさい」
「セラ様、なにを」
俺は?
「そこ、余計な思考をしない」
「へいへい。全部お嬢様に任せます」
「よろしい」
3つ、お嬢様は玉を手に取る。
白く細い指に摘まれたそれは、丁寧に握り締められた。
「金を生み出す、それ即ち運命を変えること。私のスキルの全てで閉ざされた金の道をぶち抜きますわ!」
そう、お嬢様のやることは変わらない。
当たらない? 関係ない、当てればいいだけ。当たるか当たらないかは、お嬢様が決めるんだったな。
「今この時、私はこの玉に私の全てを賭けますわ!」
瞬間、ガラス張りの店の先、白光が照らす。
コンマ数秒の誤差もなく、轟音がパチ屋を揺らし……そしてお嬢様に呼応した。俺のような常人でさえ、セラ=バートリーの身体を纏う虹色の光が見える。これは……奇跡、なのか? 覚醒したってこと、だよな?
「『当てる』のではなく、『当たる』未来。金の道は、今ここに!」
握られていた玉が虹色に輝いて、俺たち3人の台に装填された。
「虹の、玉…………?」
「すごい魔力……これが、奇跡⁉︎」
「さぁ2人とも、ファネルの策などぶち壊しますわよ!」
「お、おぉ……?」
……なんだろう、お嬢様が言うと当たる気がする。
空になった台の上皿に虹玉をセットし、ハンドルを捻った。
虹色の玉は、射出と同時に軌跡を描きつつ、抽選口へ落下していく。どの釘も阻むことなく、玉を見送る。
そして玉がチェッカーに入った途端、台の下にいる「トリ」の目が虹色に輝いた。
「トリイィィィィィィィィィィィィィイッ!」
こいつってこんな風に鳴くのか……!
わかる、わかるぞ、確定演出なんだよな?
ここからどうリーチになって、どう当たるんだ…………!
液晶画面には左右に7の数字が揃い、見た目だけなら期待できる状況だ。
またぞろ熱いリーチに行けば────
「華美な演出など、不要です」
7 7 7
鶴の一声ならぬ、お嬢の一声。
リーチ発展すらない、ビタ止まり。
昨今のパチンコ台では滅多に見ない、数字が回ってピタッと止まるだけの、ものすごーくシンプルな大当たり。それが、3台同時だ。
これを奇跡と言わずして、なんという。
「す、すごいですセラ様!」
「マジで当たりやがった…………」
アルティメットカクヨムRush、突入!