第19話 お嬢様、神への塔を攻略しましょう
──パチンコパーラー『トライアングル』。
全国250店舗を超える超大手企業、『トライアングル』の名前のままのパチンコ屋である。青い三角形のマークが目印の看板と言えばパチンコ屋を知らなくても覚えている人は多い。
行き届いたスタッフの教育、清潔な店内・トイレ。バラエティ豊かな景品。最近は会員カードで来店ポイントなんかも貯まるようになってて、景品と交換できる。
……まぁ、それだけ金を絞られるんだが。
「ここが業界大手の遊技場?」
「初めて会ったとこよりも大きいだろ?」
「やかましさも比例してますわねえ」
さもありなん。平日だというのに今日はイベント(特定のスロット台が出やすくなったりする日)なのか、客も多く熱気に満ちている。
「それで? 今日の金の匂いはどうですかっと」
「もちろん問題ありませんわ」
ジャージのトップスにロングスカート、ドレスに変わり装いも新たにお嬢様は店内を肩で風を切る。盛況のスロットコーナーなど目もくれず、パチンコのバラエティコーナー(いっぱい同じ機種が並んでいる場所ではなく、1台~2台ずつ様々なメーカーの台が設置されている場所)へ進んでいく。
昨今の深夜アニメの台や、オリジナル版権の台などもお構いなし、ぽつぽつと客が座る中で、お嬢様の足が止まった。
「多くの金の匂いから見つけました……当たりとは偶然ではなく、己が手でつかみ取るもの」
「こ、これ!?」
夢のショックでおかしくなったのか、俺はお嬢様の言葉を疑ってしまった。
なぜなら目の前にあるのは、数々の打ち手を屠って来た凶悪台。
「お嬢様、ご乱心ですか」
「不敬ね、至って正常ですわ」
液晶はなく、台上部の釘の森は今まで通り。しかし台の真ん中にそびえるは赤い塔。三段重ねのそれは、阿鼻叫喚、地獄絵図のスランプグラフ(勝ったか負けたか分かるグラフ)を作りし神の創造物。
抽選口に入れるのではなく、当たりの口へ入れれば大当たりのパチンコ台――――すなわち羽モノである。
その神の領域を目指した塔がふたつ、俺とお嬢様の前に……ある。
この店狂ってんのか…………!
「お、お嬢様……ホントにこれから金の匂いすんの?」
「あらセツナ、私の天才的直感を疑うつもり?」
俺のパチンカススキル『勝率どんぶり勘定』が言ってる。
負けるぞ、と。
でもお嬢様が行けるというなら従うほかない。金の匂いがするならば、きっと勝てるのだろう。
「さぁセツナ、神の塔を攻略しますわよ」
「あ、アイアイサー…………」
ホントに大丈夫かぁ?