第16話 お嬢様、この世界で何をするのですか?
「スシ?」
「いやお嬢がここって言ったんだろうに」
よくある回転寿司屋に入ると、お嬢様は回る寿司に釘付け中。パチンコ台やテレビ、というか他の現代の利器を見ても大して驚かなかったのに、呆けて見ている。
「変わってますわね、食べ物が流れるなんて」
「やっぱそう見えるの?」
「金の匂いがしますわ」
異世界寿司屋でもやるのか。
……日本じゃ普及済みですぜお嬢。
「ま、なんでもいいけどな」
ひとまず昔馴染みの店にお礼参りはしたし、今日の目的は達成だ。これからどうすっかなー……
流れる寿司を眺めていると、目玉である握りたての大トロへお嬢様の手が伸びる。さすが金持ち(?)、めざとい。
「ん〜とろけますわねぇ」
「1番高いやつ……それも金の匂い?」
「まさか……単に目に留まっただけですわ」
と言いつつウニの軍艦を取るあたり、やはり直感が鋭いのだろう。そしてよく食べること食べること。
「よく食うなぁ」
「淑女たるもの健康であることは大切ですので。それに私、太らない体質ですし」
もう2万くらい食ってる……マジでどこに入ってんだ?
「なにより……ここには気にする目線もありませんし」
「俺は?」
「あら、紳士として見られていると思って?」
「ないな」
パチンカスだし。
しかし2日前には考えられない状況だ。他人の金で飯を食うとは……
「お嬢様さ、結構金使っちまったけど次どうすんの?」
「決まっていますわ。使った分よりもさらに稼ぐだけのこと……違っていて?」
「そりゃそうできればいいけどさぁ……今日みたいにプロ認定されたら困るぜ」
俺も出禁になったしな。もう行けないよ『らすべがす』……まぁ、あんな締めに締められた釘の店なんて行かないけども。
「そんなことを心配していましたの? 小市民的な発想ですわねぇ」
「根っからの庶民なもんでね」
皮肉混じりに大トロを取って食らう。文句なしに美味い。どうせ奢りだ、もっと食っとこう。
「投資で重要なことは『安全性』。今日は調子に乗ってしまっただけのこと……明日はより戦略的に、そして優雅に勝利してみせましょう」
「ん? まだパチンコ屋はやってるぞ?」
「月が昇っているでしょう?」
「……だから?」
「月が昇れば、幸運の女神も眠るものですわ。ご存知ありませんの?」
そう言いながら、お嬢様はいくらの味を楽しんでいた。正直ピンとこないんだが……まさか、月が離れた、なんてダジャレじゃないよな?
「まぁいいや、お嬢様についていきますよっと」
そして買い物は終わり、次なる戦いへ備えて家に帰るのだった。