永夜
感情に従うまま走り続ける。
走り続けた先には大勢の人声で溢れる煌びやかな楽園が存在した。
「まさか本当に存在したとはな、とても驚きだ。」
一.傍観者に過ぎぬ存在
普段は東京の大都会に埋もれ、平凡な日常を「平和」であると謂う、俗にいう俺は一般人だ。
そんな俺は普段から、不思議な世界を空想することがあった。
ふとした瞬間に現れる、なんというか、気味が悪いのだが、とても俺にとって心地の良い空間。
人々は皆笑っており、なんだか、夢の中のような空間。
その空間を抜けた先には、大きな、、、。
これ以上先の世界を一度も見たことはない、そう、俺はただ一人の傍観者に過ぎないのである。
まあ、そうは言ってもただの俺の想像の中の世界に過ぎないのだが。
二.古くからの友人
俺はとある旧友の家を訪ねた。
玄関は古びた様子で赤くなった錆も見られた。
インターホンは蓋が開ききっており、蜘蛛の巣が張っってある。
それにはとてもじゃないが人を招くには遠ざかった、なんとも醜いものであった。
「すみません、加藤君は居られますか?」
物も言わず、開く扉。
そこには加藤の母親が、俯いたまま私に声をかけた。
「こんにちは、その、俊輔は今、家を出ているよ。長らく顔は見なかったが、確かあなたは、、、」
俺は咄嗟に口を開いた。
「私は俊輔君と中学校で同じクラスにもなったことのある香川です。中学2年生の頃、俊輔君は不登校になられて、よくそんな中遊びを誘っていたのですが覚えてますかね?」
一息つき、加藤の母親は話し出す。
「そうだったわね、あの時はうちの俊輔がお世話になったわよね。」
彼女の目に輝きは確認することはできなかったが、俺に対する感謝の念も感じ取られなかった。
感謝してもらうために訪れたわけではない。ただ、俺は昔加藤に聞いた「夢の世界」の話を思い出したからだ。