手紙
さて、俺が最優先でやらやければならないのは現状把握だ。
俺はシルヴェンナという少女として生まれ変わったわけだが、これは半分乗っ取りのようなものだ。
だからシルヴェンナがどのような存在で、どのような環境で暮らしていたのかを知る必要がある。
ごめんねシルヴェンナちゃん。
こうなってしまったからには仕方ないんだ。
俺が君の分まで生きていく…!!
「…それにしてもこの服、どうなってるんだ?」
俺は改めて鏡に映る自分の姿を眺める。
競泳水着を切ってアレンジしたような服だ。ピッチリと体に張り付いたこれは、背中は丸出しだしヘソの辺りも丸見えだ。
種族的にはサキュバスだったりするのかな?
なんて考えながら白い長髪を撫でてみる。
その時だ。
「…ん?」
俺は一枚の手紙が姿見近くの机に置いてあることに気づいた。
なぜかこの世界の言葉を理解出来る俺はその手紙に書いてある文字を読んでみる。
「ワタシになった人はこれを読んでね…?」
どういうことだ?
まさかシルヴェンナちゃんはこうなることを予測していたというのか!?
俺は椅子に座ってその手紙をしっかり読むことにした。
「ワタシは他人の身体を乗っ取る魔法を思いついたので、今日をもってこの身体とはお別れします。抜けた魂を埋めるために他の世界からちょうどいい魂を呼び込みました。この身体にワタシが戻ってくることはないので、ワタシになった人はこの身体を好きに使ってくれてかまいません。〝ロラ•ディプリーネス〟と唱えたらワタシの身体に刻まれた記憶があなたの魂に流れ込むと思うので、それで上手いことやっていって下さい」
え、本気で言ってる?
今の俺は興奮してて素直だから全部信じちゃうよ?
ってことで、早速唱えてみるしかない。
「ロラ•ディプリーネス!!」
椅子に座ったままそう唱えてみる。
その瞬間、俺の頭にありとあらゆる記憶が流れ込んできた。
それは文字のようであり映像のようであり、とにかく今までに体験したことのない未知の感覚が俺を襲った。
それが数秒続くと、やがてそれは収まった。
「…………おお、おおお!!!」
…多分、成功だ。
俺はこの世界での昨日なんて知らないのに、なぜか昨日あった出来事が思い出せる。
「水球」
ああ!魔法も使える!
俺の指先に直径10cmくらいの水の玉が生み出された。
身体が出来て当然とばかりに魔法を発動してくれるんだ。
呪文も、体内を流れる魔力運用も、まるで元から知っているかのように自然と行える。
これは凄いな。
魔法の知識も、この世界や魔王軍の知識も、シルヴェンナが記憶していたもの全てを俺のものとすることができた。
これが彼女が望んでいたことなのだというのなら、俺はその恩恵に与るまでだ。
これなら仲間が入れ替わっていることもバレずにやっていけそうだ。
…だけど、起きたばっかりなのに今の記憶継承のせいで一気に眠気が襲ってきた。
よし、とりあえずもう少しだけ寝てから色々と考えることにしよう。