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汚泥の花  作者: ゆゆみみ
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Rの話-3

◆❖◇◇❖◆


 ──夜が来た。


 ノックの音が、聞こえる。


「兄さん、入りますよ。……あれ? 鍵がかかってる? 開けてください、兄さん」


 僕を呼ぶ、声がする。

 僕はそれに応えない。


 予想はしていた。今日来るであろうことは。夕飯のメニューを見れば直ぐに分かった。


 だから、鍵を掛けて、布団にくるまって震えていた。


「開けてください。なんで拒むんですか。なんで私を拒むんですか。兄さん。兄さん」


 声が、徐々に色を失っていく。淡々とした口調に変わっていく。

 それでも僕は応えなかった。

 余計に状況が悪化するのは分かっていたのに。


「兄さん」


 僕は、何を間違えたのだろう。

 バキリ、と鈍い音がした。


「……また壊しちゃいました。後で直しますね」


 妹は、何を間違えたのだろう。


 布団を剥ぎ取られる。

 冷えきった夜の空気が僕の体を襲ってきた。


 視線を上げる。

 表情を失った妹が、ベッドの上で丸まる僕を見下していた。


「なんで開けてくれなかったんですか」


 腕を引っ張られ、強引に体を起こされる。その勢いに、肩の関節が軋んでわずかな痛みを覚えた。


「ねぇ、なんで開けてくれなかったんですか」


 パンッ、と小気味いい音と共に頬に痛みが走った。

 痛む頬を押さえようとすると反対側の頬から痛みが走った。今度は手の甲だからだろうか、先程よりも痛みが強い。


 僕は体を動かすことを諦め、全身から力を抜く。

 妹に掴み上げられた腕が伸びきって痛みを覚えるが、そんなことはどうでも良かった。


「…………っ!」


 乱雑にベッドへと突き飛ばされ、その衝撃に肺から空気が漏れる。


「叩いてごめんなさい、兄さん。……でも兄さんが悪いの。なんで私を拒もうとするの」


 衝動的に暴力を振るってしまったのだろう、正気に戻ったらしい妹が目を伏せて謝罪する。

 けれど直ぐにまた声色と瞳からは感情が失われていく。


 いや、失われて、代わりに別の感情が浮かび上がっていた。

 くらい、欲望の煌めき。


 普段の清楚な雰囲気からはとても想像が出来ない、まるで獣のような視線が僕の痩躯を舐め回す。

 ベッドの上に仰向けに横たわる僕の上に、淡い水色の下着姿の妹が馬乗りになった。


 ちゃんと服装を見ていなかったが、どうやら最初から下着姿で来ていたらしい。どうせ直ぐに脱ぐのだから、その方が手っ取り早いのだろう。


 荒らげた呼吸の音と共に僕のパジャマのボタンが外されていき、妹の白魚のような指先が胸の上をなぞる。


「……んっ」


 不意に胸元から走るもどかしい快楽に小さく声が漏れた。


「くふふっ……可愛い。可愛いですよ、兄さん。今日も可愛がってあげますね」


 ペロリと唇を舐める様子は、獲物を前にした肉食獣そのものだった。


 ──今日も長い夜が始まる。

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