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汚泥の花  作者: ゆゆみみ
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Rの話-1

はじめまして。

カクヨム掲載の処女作品です。

明日以降、毎日十九時に二話ずつ更新でラストのみ四話投稿します。

全二十八話なので、十三日で完結します。

一話あたりの文量は短いので、お暇があればどうぞ。

 ──僕は、妹が怖い。


◆❖◇◇❖◆


 突然の事故で両親を亡くしたのは、中学一年生の頃だった。

 そうして、僕にとっての家族は妹の一人だけになった。


 両親を無くして暗い顔で泣く一つだけ歳の離れた少女。

 それは僕にとって、護らなければいけない存在。護りたい存在。

 兄として、唯一の家族である妹のことを心から愛していた。


 保護者代わりになってくれた叔父は、特に何もしてくれなかった。叔父もまた、妹である母を深く愛していたようだった。

 だからこそ、全くの見当違いとはいえ、母を奪った存在である僕らを良いようには思っていなかった。


 結局、僕らは両親の遺してくれた家で二人きりで過ごすことになった。大変ではあったけど、腫れ物に触るように接せられるよりは、ずっとずっとマシだった。


 周りと比べて特別裕福な家庭というわけではなかったが、僕らの将来のためか、貯蓄はそれなりにあった。


 それに快く思っていなかったとはいえ、最低限必要な金額は叔父が出してくれていたから、その面で苦労することはなかった。家事を覚えるのは大変だったけれど。


 特に料理は何度も何度も失敗して、最初は出来合いのものばかりを買って食べ、僕が中学三年生になる頃に漸くまともに作れるようになった。

 とはいえ、僕なんかよりもずっと要領の良い妹は、僕よりも早く成長していった。

 結局、料理も含めて家事の全般は彼女が担っている。料理については、自分の領域と定めているのか、僕の介入を良しとはしなかった。



 いま考えると、それも策略だったのかもしれない。

 ……いつから妹がそんなことを考えていたのか、昔からなのか、それとも二人で暮らすようになってからなのか、僕は知らない。

 それを、聞いたことも無い。知らなくてもいいことだったし、知りたくもなかったから。


 僕が高校に上がる頃、中学三年生になった妹は贔屓目に見ても文句なしの美少女だった。

 百六十センチしかない僕と比べて、百七十センチという女子としてはやや高めの身長。モデルのように足は長く、胸は特別大きい訳ではなかったが、すらりとして清楚な印象を与える。肩甲骨辺りまで伸ばした艶のあるストレートの黒髪、少し吊り目の綺麗なアーモンド型の目元、小ぶりだが整った鼻とやや薄めの唇も清楚な印象をより強くさせる。泣いてばかりだった頃からは考えられないほどに、社交的で明るく人当たりの良い性格。


 学校内で一番の人気というのも素直に頷ける。男女問わず人気があり、告白も数え切れない程に受けてきたらしい。可愛くて、性格が良くて、家事も完璧で家庭的な面を持っていて、もちろん兄としても自慢の妹。


 それは家でも同じだ。

 あの日以来、感情が平坦で滅多に笑えなくなり、悲観的な性格で友達も数える程しかいない僕に、妹はいつも明るく接してくれた。

 数年前とは立場が逆になった。妹の存在が家の中を明るくしてくれた。その名前の通り、僕にとっての陽だまりになった。僕の精神的な支柱となり、救いとなっていた。


 ……そう、救いとなって、"いた"。


 僕が高校一年生になったある日、全ては過去形となった。


 あの日、日常は崩壊した。

 いや、本当はとっくに崩壊していた。

 僕が、気づいていなかっただけ。



 ──ノックの音が、聞こえる。

 

 僕を呼ぶ、声がする。

 けれど、僕はそれに応えない。

 布団を被って震えているだけ。

 そんなことをしても意味なんてないのに。寧ろ、余計に機嫌を損ねるだけだと分かっているのに。


 何故、こんなことになってしまったんだろう。


 僕は、何を間違えたんだろう。


 或いは、妹は、何を間違えたんだろう。


 何も分からなかった。

 何も考えたくなかった。


 ただ、震えることしか出来なかった。

 ただ、受け止めるしか出来なかった。



 ──僕は、ひなたが怖い。


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