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3.力を示す戦い。

そおい(*'▽')ノ








 酒場の外に出ると、この季節特有の乾いた気持ちの良い風が吹いていた。

 夜空に浮かぶ三日月を見上げると、むさ苦しい酒場でかいた汗が冷やされて清々しさすらある。俺は大きく開けた場所まで歩いた後、続いて出てきたクリスの方を振り返った。

 そして、分かってはいるが念のために訊ねる。



「それで、話し合いって?」

「分かってるでしょ? アタシは自分より弱い相手には、従わない」

「………………」



 彼女はそのように言うと、収納魔法で仕舞い込んでいた得物を取り出した。

 手にしたのは、身の丈以上ある巨大な戦斧。屈強な大人の男性でも、安易に持ち上げようとすれば腰が機能しなくなってしまうほどの重量だ。それにもかかわらずクリスは片手で軽く扱って、こちらを真っすぐに見据えている。

 俺はそんな彼女と向かい合って、同じく剣を取り出した。


「分かってるさ。クリスとは、事あるごとに殴り合ってたからな」

「ひ、人聞きが悪いよ!? 別にアタシはそんな、暴力女じゃないんだから!!」


 要するに、力を示せということ。

 クリスは俺の言い方に不服そうではあったが、おおまかに正しい。なので彼女も、こちらの表現にこそ文句を口にするが、それ以上は茶化したりしなかった。

 互いに言葉少なになり、静かに間合いを計り合う。そして、



「行くよっ!」

「あぁ!!」



 そのやり取りを合図として戦闘は開始された。

 剣を下段に構えた俺に対して、クリスは一直線に距離を詰めてくる。戦斧を思い切り振り上げ、容赦のない一撃を叩きつけてきた。俺は後方に飛び退って回避するが、彼女の攻撃は石畳を粉砕して円形に深く陥没させる。

 粉塵が舞い上がり、静かな夜の街中には轟音が鳴り響いた。

 こんなものを喰らえば、普通の人間なら三回は死んでいるだろう。


「相変わらず凄いな……!」

「アルだって、しっかりと回避するあたり普通じゃないよ!」

「お褒めいただき、光栄です……っと!」


 桁外れの身体能力は、やはり目を見張るものがあった。

 しかし、いつまでも感心してばかりではいられない。こちらも反撃の準備にかからないと、絶望的なまでの能力差は埋められなかった。

 だったら、俺にできるのは――。


「さて、ここから一気に行くぞ……!」


 ――魔法による身体強化で、総合的に上回ること!



「な、アンタは本当に万能というか……!」

「悪いけど、それが俺の戦い方なんでね!」



 格段に素早くなった俺に対して、クリスは悔しそうな表情を浮かべた。

 ただでさえ大きな戦斧を得意としている彼女の戦闘スタイルは、速度に勝る相手に苦戦を強いられる。もっとも、そんな相手は世界中を探しても数える程度しかいないだろうが。

 それに、速度で上回られたとしても――。


「あぁ、もう! こんなの使ってられない!」


 素手でかかってこられたら、アドバンテージは意味をなさない。

 相棒ともいえる戦斧を投げ捨てた彼女は、渾身の力で思い切り殴りかかってきた。俺はとっさに剣の面で、クリスの拳を受け止めたが……。



「おいおい、マジかよ!?」



 簡単に、破壊された。

 それはもう見事なまでに、根元から。



「さて、これでもうアタシたちは対等! いいや、もしかしたら――」



 あるいは、クリスの方が勝っているかもしれなかった。

 彼女もそれを考えたらしく、勝機を見出したとばかりに距離を詰めてくる。だが、それがクリスの抱える欠点でもあった。



「だから、その猪突猛進さを改善しろ、って言ってるだろ?」

「何を言って――きゃあ!?」



 俺の言葉に反論しようと、彼女が声を上げようとした瞬間。

 足元に、小規模ながら魔法陣が展開された。


「にゃああああああああああああああああ!? な、なによこれええええええ!!」


 そして無数のツタがクリスの足に絡みつき、彼女の身体を拘束する。

 暴れれば暴れるほど強く堅く縛り上げていくそれに、しかしクリスはなおも必死に足掻き続けていた。だけど、そうすればするほどドツボであって――。



「あー……クリスさん? あまり暴れると――」

「ぎゃあああああああ!! 服の下、入ってくるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「……あーあ、言わんこっちゃない」

「負けた! 負け認めるから、助けてぇ!?」

「はいはい」



 乙女としての羞恥心により、クリスはあっさりと降参したのだった。

 なお、解放してからキツいのを一撃もらってしまったが。



 


面白かった

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