2.規格外の戦力。
(イレギュラーな一日だったぜ……)←投稿少なくてごめん、の意。
「アル、またきたのか?」
「なんだよその、こいつマジか、って顔は」
「そのままズバリだよ。貴族様で冒険者ギルドに顔出すなんて、お前くらいだからな」
日が落ちて冒険者ギルドに足を運ぶ。
すると俺を出迎えたのは、受付嬢のマリーナだった。眼鏡の位置を直しながら、彼女は悪戯っぽく笑っている。自分はもう貴族でないのだが、今さら同じ説明をするのも面倒だ。
そんなわけで俺は、単刀直入にとある人物の行方を訊ねる。
「マリーナ。クリスはどこにいる?」
「あぁ、クリスさんね。あの人ならいま、酒場で飲んでると思うよ」
「分かった。ありがとな」
どうやら件の人物は、ギルド併設の酒場にいるようだった。
マリーナに感謝を述べつつ移動し、ドアを開けると――。
「ふっざけんなこらあああああああああああああああああああああ!!」
すぐに、そんな金切り声が聞こえてきた。
鼓膜が破れるのではないかと思わされるほどの大きさに、俺は思わず耳を覆う。眉間に皺を寄せて、その声の主を探すと想像通りの光景が広がっていた。
小柄な少女が巨漢の冒険者と睨み合いになっている。
一見すれば気の強い女の子が、無茶な喧嘩をしているように見えた。だが、
「や、やめろクリス! 落ち着くんだ!!」
「ここは互いに矛を収めて、な!?」
「飲食店で死人はマズいんだ!!」
大人の男性三人に羽交い絞めにされているのは、少女――クリスの方である。
よくよく見れば、揉め事の相手である冒険者も大粒の冷や汗を垂れ流していた。周囲が止めに入らなければきっと、一目散に逃げるか、腰を抜かして命を落としていただろう。
そんなこんなでどうにか仲裁が入り、ひとまず騒動は沈静化した。
俺は不満げにエールを呑み直したクリスのもとへ向かい、隣の席に腰かける。
「今日も元気だな、クリス」
「……あ? 誰かと思ったら、アルじゃないの」
声をかけると、一瞬だけ睨まれた。
だがすぐに明るい笑顔を浮かべた彼女は、力任せに俺の背中をパンと叩く。
低い背丈に幼い容姿をしているが、クリス・アーデという女性の力は相当なものだった。いまだって背中に一撃入って、数秒ほど呼吸が止まるほど。
しかし下手に顔に出すと、また問題になる。
そう思って自分の受けた痛みは我慢しながら、苦笑しつつ訊ねた。
「でも、今日はどうして揉めたんだ?」
「あー! そのことなんだけどさ、聞いてよ!!」
するとクリスはエールの入ったグラスを――ダンッ! と、テーブルに叩きつけながら訴える。
「あのオッサン、アタシを見るなり開口一番に『あ、オークだ』って言ったのよ!? 誰がバケモノよ、誰が魔物よ!! こちとら、か弱い普通の女の子だっての!!」
「…………ははは」
――か弱い普通の女の子は、間違ってもSSSランク冒険者にはなれない。
俺はそう思いつつ、どうにか愛想笑いを浮かべた。
このクリスという『女の子』は、天性の身体能力を秘めた最強冒険者である。特に彼女の怪力に関するエピソードは事欠かず、先日はついにドラゴンの首を素手で捩じ切った、とのこと。正直なところ『オーク』よりも『デーモン』と呼んだ方がしっくりくるが、いかがなものか。
とはいえ、そんなことを本人に言えば殺されてしまうに違いなかった。
だから俺はあえて、それ以上のことは言わない。
「……ところで、アルはどうしてここに?」
「別に珍しくないだろ。俺が酒場に顔を出すなんて」
「それはそうだけど、さ! でもアンタとは十年の付き合いだし、顔を見れば考えていることくらい分かるわよ?」
「ほー? だったら、当ててみてくれよ」
そうしていると、酔っ払いらしく絡まれた。
頼んでおいた果実飲料を口にしつつ適当に答えると、クリスは微かに頬を赤らめながら言うのだ。
「えー……っと。ついに、告白?」――と。
ほんの少しだけ、上目遣いに。
俺は即答した。
「絶対違う」
「えええええ!? だったら、なんだってのよぉぉぉ!!」
「あががががががががががががががががががが!?」
すると胸倉を掴まれ、思い切り前後に揺さぶられる。
とっさに逃げようとしたが間に合わず、脳に相当なダメージを負ってしまった。とりあえず俺はクリスにやめるよう手で合図を出し、気絶寸前でどうにか解放される。
彼女は変わらず不満げだったが、とりあえず話を聞いてもらわなければ。
そう考えてから、このように口にした。
「……でも考えようによっては、今より長く一緒にいられるかもな」
「どういうこと……?」
首を傾げるクリス。
俺はそんな相手に対して、真っすぐにこう告げるのだ。
「俺と一緒に、きてほしい」――と。
要するに『俺の理想を叶えるため、手を貸してほしい』という意味で。
しかし言葉足らずだったか、クリスはしばし目を見開いて――。
「きゅぅ……」
短くそう鳴くと、円らな瞳をぐるぐる回しながら倒れてしまうのだった。
◆
「はいはい。なるほどね、はいはい」
「何をそんなに怒ってるんだよ」
「うるせっ!」
「いたっ!?」
彼女が目を覚ましてから、事細かに事情を説明する。
すると何故か、わき腹を強めに小突かれた。
「つまり、アタシの戦力を役立てたい、ってことね?」
「そういう、こと……だ」
クリスの確認に、俺は脂汗を流しながら頷く。
すると、彼女はしばし考えてから言った。
「分かったけど、一つだけ条件があるわね」
「……条件?」
こちらが訊き返すと、クリスは小さく小悪魔っぽい笑みを浮かべ。
「ちょっとばかり、表で話し合いましょうか……!」
そう宣言するのだった。
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