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歓声で城が揺れたかと思った。それぐらい熱気と凄まじい勢いを感じた。
扉が開いた瞬間、私は一歩も踏み出させないぐらいの歓声の力に圧倒された。これほどまでに私に会うことを楽しみにしてもらえていたなんて、と胸が熱くなる。
王族は国民に愛されてこそ生きていられる。
国民を守るのが私たちの仕事であり、国民に愛されなくなった王家は必要ない。
私はそんなことを思いながらバルコニーへと足を踏み出した。
その瞬間、数秒だけ静まり返った。私はバルコニーの一番前まで進む。国中が今私を見ているのだ。
心臓が痛くなる。怖気づいてしまうぐらいに視線を感じる。
こんなにも人に見られたことがない。私の想像をはるかに上回る人数がその場にいた。
この国にこれほどの人数の人間がいたのかと驚いてしまう。皆の表情を見れるほど、心に余裕がない。自分のことで精一杯だ。
一体どんな表情で私を見ているのだろう。この静けさが私に恐怖を与える。
王宮の庭園には貴族たちが、王宮の外にはぎゅうぎゅうに押し合いながら国民たちが私を見ている。
私は立ち止り、ゆっくりと丁寧にお辞儀をした。その瞬間、また城が揺れたかと思った。
歓声の威力に私は体が委縮しそうになる。私は顔を上げて、全体を見渡した。今度はちゃんと一人一人の顔を見ることができる。
私を見て、涙を流す者もいれば、本当に失神している者もいた。鼻血を流す者も……。
その様子が少しおかしかった。私の存在だけでこんなにも喜んでもらえるものだと思うと、「姫」という立場は本当に揺るぎない特別な場所なのだと実感させられる。
「ミジュ様万歳!!!」
「姫様に祝福あれ!!」
「女神だ!!」
「いえ、天使よ!! ミジュ姫万歳!!」
十六年間、城でしか過ごしたことがなかった。
少しだけ外の世界に触れただけで、これほどにも胸が高鳴るなんて……。きっと、外の世界は多くの魅力で溢れているのだろう。
私は今この国で最も注目を浴びているのだという自覚を持ちながら、口角を少し上げた。
微笑むだけでいい。私の今日の役目だ。
悲鳴に近い声が耳に響いた。その声にビクッと少しだけ体を震わせてしまう。
「大丈夫です。あれは喜びの声です」
後ろからジュリックが小さな声で囁いてくれた。
その言葉でホッと胸を撫で下ろす。この日だけはどうか物騒なことなど何も起きないでほしい。
無事に何事もなく私の誕生祭を終わらしたい。
「そろそろお時間です」
私はジュリックのその言葉でバルコニーを後にする。
バルコニーの扉が閉じるまで一瞬たりとも気を抜くことは出来ない。扉が閉じられても、歓声は止み終わらない。私の心臓もまだずっと音を立てている。
緊張しているのが伝わったのか、ジュリックが「姫様、もう役目は果たしましたよ」と耳元で呟いてくれた。
私はそれと同時に安堵のため息をついた。




