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「貴女の持つ気品だけは誰も真似することができないわ」
姉は私を見てそう言った。
コンコンッと部屋に扉をノックする音が響く。兄が「何だ?」と聞くと、扉の奥から、「ミジュ姫様、そろそろお時間です」とさっきの侍女の声が聞こえた。
とうとうこの時が来た。
私はスゥッと息を吸い込み、覚悟を決める。どれだけ緊張しても、圧に押し潰されそうになっても、決して震えてはいけない。
毅然としていなければならない。私の今日の役目は、優雅な美姫を全うすることだ。
私は扉を開けて、外に一歩踏み出す。それと同時に自分の能力についてまだ答えを聞けていないことを思い出した。
「あの、私の能力は……」
「自分で見つけなさい」
私が振り向くと、姉ははっきりとした声でそう言った。
意地悪で教えないわけではない。自分で見つけることに意味がある。私は姉の気持ちを汲み取り、ゆっくりと頷いた。
そして、その場を後にした。
心臓の鼓動が速くなる。必死に落ち着かせながら、ゆっくりと足を進めた。
早足になれば、私の平常心を保てていないことがバレてしまう。
廊下ですれ違う使用人たちは皆私に深く頭を下げる。私を呼びに来た侍女は私のドレスを踏まないようにと数歩後ろを歩いている。
静かな廊下に使用人たちの些細な会話が聞こえてくる。
「なんて見目麗しいお方なの」
「ミジュ様は今までの王家の中で最も美しいと言われている姫様よ」
「きっと、初めてミジュ姫様を見られる方は失神してしまうわね」
「今日は医者もお休みだぞ」
「気を失った人達には自力で起き上がってもらうしかないな」
失神するほど私の外見は素晴らしいものではない。
それほど国民たちに期待されているのか……。私の外見の噂はどんな風に国民の耳に届いているのか気になる。
あまりハードルを高くしすぎないでほしい。こんなものか、とがっかりされては困る。誕生日に国民の失望した表情をみるなど嫌だ。
私は階段を上り、この城のバルコニーへと足を運ぶ。
一段上るごとに緊張が増す。王家に仕えている者以外の国民を初めて見る。喜びという感情の上に不安が覆いかぶさってくる。
バルコニーの前にはジュリックがいた。
厳重な警備に守られて私は今から初めて外界と接する。
「……とっても静かね」
本当にこの扉の奥に国民がいるのだろうかと疑ってしまうぐらい静寂に包まれている。
「全国民がミジュ姫様のご登場を待ち望んでいるのです」
ジュリックの優しい声に私は少し安心する。息をゆっくりと吐く。
私は衛兵によって開けられる扉の前に立った。