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「お姉様、私の能力は……」
「私の能力はね、人の心の声が聞こえるの。……限られた範囲だけどね。もちろん常にじゃないわよ。聞こうと思って集中させないと使えない」
姉は私の能力から話を逸らすように自分の能力の話をした。
心の声が聞こえる……。それって、信用できる者とそうでない者を判断できる。
「そうよ。裏切り者をすぐに見つけることができる」
「今、心を読み取った?」
「ええ」
姉は優しく私に笑いかけた。
便利だけど、人間不信にもなりそうな能力だ。人の裏と表を見てしまうのだから……。
「能力を使っている間はここが光るのよ」
姉は右手首を私に向ける。紋章から青色の光が放たれていた。姉はドレスの袖を手首まで持ってきて、光を隠す。
今までも私の心の内がバレていたのかもしれない。そう思うと、少しだけ緊張した。
「ミジュが思った通り、この能力は便利だけど、人の心の内を知れば知るほど厄介よ。疲れてしまうもの」
少し寂しそうな表情をする姉を見ながら、これまで沢山の腹黒人間たちを見てきたのだろうと思った。
私は兄の方へと視線を向ける。
「お兄様は?」
「俺の能力はこれだ」
そう言ったのと同時に、兄はその場から消えた。
消えた、という表現は間違ったかもしれない。
透明になった。服だけが残っている。それと、木箱が浮いている。
兄の能力は、透明人間になれる能力。…………こっちの方が厄介かもしれない。
使用できるのが裸体の状態でしか効果はない。
「スパイになれますわね」
私はなんて答えて良いか分からずベストアンサーをなんとか絞り出した。
兄はフッと姿を現し、苦笑する。どこか居心地が悪そうだ。
「まじで使えねえよ、この能力」
「いいえ、そんなことはないと思います。どんな能力でも必ず役に立ちます。人間に知恵があるのは、こういう時のためでしょ?」
私がそう言うと、姉は声を上げて笑った。豪華に笑うが、決して下品な笑い方ではない。
姉の隣で兄が「この妹は本当に……」と、どこか悔しそうな表情を浮かべる。
「ミジュは俺達が十六歳の時よりもしっかりしているな」
「当たり前でしょ。カイリーは全く落ち着きなかったもの」
「そういうカミューラだって、いつも父上に怒られていただろ」
兄と姉は羨ましいぐらいに仲が良い。
よく言い合っているが、「仲直り」という概念がないほど、気付けば元通りの関係になっている。
彼らが数日間も口を利かないなんてことはこれからもないだろう。
「結局その木箱の中はなんでしたの?」
私がそう聞くと、兄と姉は口論をやめた。
二人にとって優先すべきは私の相手だと思うと嬉しくなる。私は良い兄弟を持った。
「ティアラよ」
兄が木箱を開けて、姉が言葉を発した。
私は木箱の中にある沢山のダイヤモンドが埋まっているティアラに釘付けになる。箱の中で輝くティアラの存在感から目を離すことなどできない。
なんて、綺麗なの…………。
「最後の仕上げよ。私が付けてあげるわ」
姉はそっとティアラを取り出し、私の頭に優しく乗せた。
しっかりと重みがあった。このティアラを決して落とさないようにスッと姿勢を伸ばした。