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木箱から手を離してしまう。木箱は姉がしっかりと支えてくれていた。
私は何が起こったのかよく分からず、右手首を抑える。
…………木箱が光った? そんなトリックが仕掛けてあったの?
兄と姉のイタズラ……でもなさそう。二人の様子を見ているといたって真剣な表情だった。
「見して」
姉はそう言って、木箱を兄に預けて、私の手首を強引に掴む。私は自分の身がどうなっているのか理解できないまま姉と一緒に自分の手首へを見る。
…………なにこれ。
初めて見る紋章が右手首でピンク色に光っている。少しすると、光は落ち着いていき、黒へと変化した。
私は驚きと共に、消えないものなのかと左手で必死に手首に残された紋章を擦る。
「消えるものじゃないわ」
そう言って、姉は自分の右手首を私に見せた。
……同じような紋章が姉の手首にもある。私は兄の方へと視線を向けた。彼は黙って頷いた。
「王族の血が流れる者しかこの箱は開けれないの」
「……そんなの知らなかったわ」
「十六歳の誕生日を迎えた日に初めて知るの。私たちも最初は困惑したわ」
私はもう一度自分の手首を見つめた。
もう痛みはなかった。ただ、なんだか自分の体なのに自分の体じゃなくなったみたいな感覚……。
「……どうしてお姉様と私の紋章は違うの?」
「それはそれぞれ授かった能力が違うから」
「どういうこと? 私たちは何か特別な力を持っているの?」
これでも私は落ち着いている方だと思う。
ただ、疑問をぶつけているだけだから。もっと取り乱して混乱する可能性だってある。
突然能力を持っているなんて受け難い話だ。……いや、王族だから別にあり得るのかもしれない。
私は脳内で情報が整理できないまま、必死に考えた。私は馬鹿じゃない。自分で答えを導き出せるはずだ。
「全て説明す」
「生まれ持っていた能力をこの木箱を開けたことによって開花させた……?」
私は姉の言葉を遮り、自分の考えを口にする。
王族の血が流れる者だけが開けれる箱で、それに反応したのであれば、元々私たち王族に何かしらの力が備わっていたと考えるのが妥当だ。
「やっぱり、ミジュは物分かり良いわね」
感心するように姉は私を見る。
私は自分の能力よりも兄や姉、そして父の能力の方が気になった。母は王族になったが、王族の血が流れているわけではない。
「貴女の紋章は…………」
姉はもう一度私の手首を見た。ゆっくりと彼女の目が見開くのが分かった。
彼女は私の手首を掴んだまま固まっている。兄はその様子を見て「どうした?」と私の手首を覗く。
彼も同様、私の紋章を見て固まる。流石双子だ。動きが完全にシンクロしている。
私は二人の様子を黙って見ていた。私の能力を鑑定されているようで楽しくなってきた。
なんの変哲もない日常に小さな起爆剤が設置されていたのだ。面白くないわけがない。
「これは……」
兄がようやく口を開く。姉はまだ私の紋章をじっと見つめたままだった。
「父上に報告を……」
「待ちなさい、カイリー」
「だが」
「まだよ」
姉の強い口調により、この部屋を出ようとした兄は動きを止めた。
そんなに深刻なものなのだろうか、私の紋章は……。
人を殺してしまうような?
私は自分でそんな想像をして、ゾワッとする。そんな能力があるのなら、脅威でしかない。




