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……なにここ。
やはり、初めて見る構造だ。海の中にある王宮なのだから、異国だと思っていた方がいい。
異国というか、……サメの家だ。
私たちの生きている世界線ではない。全く違う世界だと認識しておいた方が良いかもしれない。
私は果てしなく続く長い廊下をずっと裸足で歩き続ける。
ジュジュがトップなのだということは周りの態度ですぐに分かった。彼女が通ると使用人たちは動きを止めて、ジュジュにお辞儀をする。
……けど、こうしてみたら、ザイジュって随分と多いのね。
「生息しているのはここだけだがな」
「もうっ、勝手に頭の中を読むのやめてよ」
「読みたくて読んでいるわけではない。聞こえてくるのだ」
こんなに可愛らしい少女の身なりで、話し方の貫禄に脳が少し混乱しそうになる。
ジュジュは人間をどう見ているのだろう。……ってこれも聞こえているのか。
彼女は私の心の声を聞いたのだろうが、何も言わずにただ足を進めた。私も黙って彼女について行く。
「着いた」
ジュジュはそう言って、足を止めた。…………壁だ。
壁を上るのかと上を見上げてみるが、あるのは高い天井だけ。
私が困惑しているうちに、彼女は壁に右手を置いた。その瞬間、スゥッと壁が消えた。
……魔法?
今日はずっと驚きの連続で、壁が消えることぐらいじゃ、もはや驚かなくなってきた。
「入れ」
ジュジュの後に続いて、私も部屋に入る。私が入った数秒後、また壁は元通りになっていた。
「ここは絶対に安全な場所じゃ。人間を好まないザイジュもいるから、念の為にな」
きっと、ジュジュは人間が好きなのだ。
関わりたくないと言えども、ジュジュは人間を嫌ってもいないし、憎んでもいない。
私は部屋の真ん中で眠っているヴェルを発見した。シンプルな大きなベッドに眠っている彼に近付く。
何事にも取り乱さない癖がついてしまっているせいで、彼の元へと歩いて向かった。
眠っている彼は頬が少し赤く、うなされているように見えた。……それに、頭に巻かれている包帯が赤く滲んでいる。
「船で頭をぶつけたのだろう。応急処置はしたが、傷口から菌が入って発熱している。……かなりまずい状態だ。普通の人間なら死んでおる」
「治せないの?」
私はジュジュの方を最後の希望を見るような目で見た。
貴女しかもう頼れる人はいない。だから、どうかヴェルを救ってほしい。




