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広大な背中に私はちょこんと乗り、吹き飛ばされてしまいそうな勢いで海底へと向かった。
深海の冷たさや圧を一切感じない。快適な状況のまま、海の奥底へと沈んでいることが信じられなかった。
……これが現実だなんて。
大海をこれほどのスピードで自由に泳げたら、どれだけ楽しいだろうと想像してしまう。
『あそこが妾の住処だ』
海の底で青色の光を発している場所があった。
あまりにも幻想的な区域で、私たち人間が足を踏み入れていいところではないような気がしてしまう。
あそこにヴェルがいるのだ。必ず助けてみせる。
『ヴェルという男はお主の想い人なのか?』
……違うわ。……知り合ってまだ数日よ。
ジュジュにそう聞かれて、少し動揺してしまう。
『それなのに、命を張って助けに来るのだな』
私を信じてくれたから。
彼だけが私の言葉を信じてくれた。それだけで、私はあの場所で救われた。
だから、今度は私が助ける番だ。
『人間のそういうところが好きじゃ』
ジュジュはそう言って、ゆっくりと動きを止めた。私はミジュの背中を滑りながら降りる。
想像していた数倍以上のサメがそこにはいた。
私の目の前にあるのは、異国の王宮のような建物。それも、人間サイズ?
何がどうなっているのか分からない。こんな大きさジュジュからしたら、ミニチュアサイズ……。
そんなことを考えていると、突然ジュジュは青い光に包まれた。
目を見開きながら彼女をじっと見つめる。何が起こっているのか全く理解出来ていない。
「な、に……」
さらに、私はいつの間にか自分の声が海の中で発せることに気付く。
「驚くでない。世界は不思議なことで溢れておるのだからな」
落ち着いたその声に私は目を疑った。
さっきまでサメのカタチをしていたはずのジュジュがいつの間にか美しい少女になっていた。
全体的にゆったりとした初めて見るドレスの造りだった。フワッとシフォンドレスのように裾は広がり、腰は帯のようなもので締められていた。
腰ぐらいあたりまである艶やかな髪に藍色の瞳……、異国の姫のような雰囲気がある。
幼い見た目をしているのに妖艶さを感じられるのは、千年も生きているからだろうか。
「ジュジュ?」
「ああ。人のカタチの方が楽だからな」
随分と若作りだ。
「おい、お主の考えていることは分かっているんだぞ」
美少女にじっと睨まれる。
ザイジュはサメの姿をして、この場所を守っているのか。
ザイジュたちにとっての都はここだ。人間の欲など愚かなもので潰されてはたまらない。
「妾たちも平和に過ごしたいからのう。その為には敵は近付けない方が良いだろう」
人類がザイジュたちの相手などしても勝てるはずがない。
立派な造りの屋敷に入っていくジュジュについて行きながら、そう考えていた。
彼女は独り言のようにボソッと「それはどうだろうな」と小さな声で呟いた。




