4
「あ」
私の部屋へと近づいてきた侍女は私とジュリックを交互に見ながら、気まずい表情を浮かべた。
何か大切な瞬間を邪魔してしまったのだと悟ったのだろう。息を切らす侍女にジュリックは場所を譲った。
私は部屋の扉の方へと近づき「どうしたの?」と声を掛ける。
「あの、すみません。先にジュリック様との用事を済ませてからで……」
「いえ、大丈夫よ」
私はジュリックの方を見た。彼は「そちら優先で」と私に視線を送り、軽く頭を下げた。
これも運命なのだろう。
「ですが……」
私たちの様子に侍女が申し訳なさそうにする。
たった一言発するぐらいなら、数秒で終わる。だけど、全てはタイミング。私たちはタイミングに恵まれてなかった。ただそれだけのこと。
「……仕方がないわ」
私は静かにそう言って、足を進めた。
侍女はおろおろしつつも私の後をついてくる。ジュリックの表情は見なかった。きっと私を快く見送ってくれたはず……。
廊下に私のヒールの音だけが響いた。
「それで用事は?」
暫く歩いてから、私は侍女に話しかけた。
「あの、カイリー様とカミューラ様がミジュ様を至急呼んでくれ、と」
「お兄様とお姉様が?」
「はい。……その、どうやら、お渡ししたいものがあるとか……」
「渡したいもの……」
私は彼女の言葉をそのままオウム返ししてしまう。
兄と姉が私に何かプレゼントなんて珍しい。生まれた時から欲しいものは何でも手に入った。
だからこそ、兄や姉から何かを貰うなんてことはなかった。
十六歳の誕生日はやはり特別なんだと実感しながら、私は彼らのいる応接間へと向かった。
コンコンッと大きな扉をノックして「ミジュです」と言うと、数秒後に勢いよく目の前の扉が開いた。
綺麗に着飾った兄と姉が私を見て、目を輝かせている。
興奮で二人の金髪がサラッと小さく揺れる。金髪は王家の象徴のようなものだ。二人の瞳の色は父親譲りの透明感のある青い瞳。母は緑色だ。
……やっぱり、どう足掻いてもピンク色なんて生まれるはずがない。
「まぁ、なんて綺麗なの!」
「俺たちの妹が世界で一番可愛い」
二人の感嘆の声に隣で侍女も大きく頷いている。
そう、二人は大の妹好きなのだ。私も二人が好きだ。しかし、彼らの私への愛情には凄い。表現する言葉が見当たらないほど「凄い」のだ。
私のためなら、国を傾けてしまわないか? と思うほど私を溺愛してくれている。
…………だからこそ私は欲をしまっておかなければならない。
「ありがとうございます。お姉様、お兄様」
二人は私を抱きしめたそうにしているが、完璧に着飾った私の衣裳を崩すわけにはいかないと必死に堪えている。
その様子が可愛らしくて思わず、フフッと笑みをこぼしてしまう。
私が笑うと、兄と姉は固まったまま私を見て、姉は「は~~~、全くうちの妹が可愛すぎて困る」とため息を吐く。
兄は顔を破顔させながら私をエアハグする。
「ああ、本当に可愛いよ、ミジュ」
こんな兄を見ることができるのは妹の特権だ。
私以外の人達の前ではいつも「近寄りがたい王子」と「文武両道の姫」という肩書で過ごしている。
「渡したいものがあるとお聞きしたのですが」
「ああ! そうだったわ!」
姉は思い出したようにハッと手を合わせる。
彼女は応接間の真ん中にある赤いふかふかのソファに囲まれた机へと向かい、細かく模様が彫られた両手からはみ出るぐらいの木箱を持って私の方へとまた向かってくる。
「これをミジュに」
私は木箱を見つめながら、首を傾げた。
それと同時に「私はこれで」と侍女が席を外す。彼女はゆっくりと応接間の扉を閉めた。
「なんですか、これ?」
「開けてごらんなさい」
私は姉の言葉に従い、木箱をゆっくりと開けた。その瞬間、バチッと何かが光った。眩しくて思わず目を瞑ってしまう。
私は内手首に走った熱い衝撃に「痛ッ」と思わず声を漏らす。




