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花と謳われた姫は蝶となる  作者: 大木戸です


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 私はその瞬間、ヴェルと目が合う。

 私を信じてくれたヴェルに感謝するのと同時に、私はヴェルが私を信じてくれたのだろうと少し不思議に思った。

 ハーディのようにヴェルも私を疑っていてもおかしくはない。

 ドーンッとまた後方で音がする。今まで体感したことないぐらいの揺れに私は必死にロープに捕まる。

 後、もう一発落ちてくる。

 私は気を引き締めた。とりあえず、進路はずらしたから、雷の被害はあと一つだけで抑えられる。

 ……どうか遠い場所で落ちて。

 私は切に願った。ここさえ避けることができれば、後はこのまま安全にシュラン国へとたどり着くことができる。


「ヴェル、中に入って!!!」


 私は上空でピカッと眩しく光る雷を見た瞬間に彼にそう叫んだ。

 ヴェルの方に雷が落ちる。三つの中で最も船に近かった。私は思わず叫び声を上げてしまう。

 信じられないぐらい船が揺れた。ロープから手を離してしまえば、確実に海へと放り投げられる。どれだけ波が押し寄せてきようが、私は必死にロープを握りしめ続けた。

 水圧が肌に突き刺さり痛い。……けど、この手を離したら確実に死んでしまう。

 私はふと目を凝らしながら、ヴェルが立っていた場所を見た。

 ……………………いない。

 嫌な予感がした。私はロープにしがみつきながら、ヴェルがいた場所へとゆっくり前進する。


「ヴェル!!」


 私は彼の名を叫んだ。船がひっくり返ってしまうのではないかと思うぐらい傾いている。

 持ちこたえて……。

 心の底からそう願った。この船もヴェルも死なせやしない。


「ヴェルは!?」


 私はハーディの方へと視線を向ける。流石のガタイと体幹だ。がっしりと片手でロープを握りしめて、さっきいた位置から少しも変わっていない。

 彼はヴェルがいたところを目を見開きながら見つめていた。その視線で私の嫌な予感が的中した。


「ヴェルが落ちた」


 ハーディのその一言に私は背筋が凍った。

 この場所で落ちたということは…………。


「ザイジュが……」


 ハーディがその場にいる全員の気持ちを代弁して口を開いた。

 私は気付けば、ロープから手を離していた。ヴェルがいたところへと足を運び、私は海へ迷いなく飛び込んだ。

 ハーディの「行くな!」という声を無視する。

 不思議と恐怖感はなかった。ただ、ヴェルを助けたいという気持ちだけだ。

 この旅で海に飛び込むのは二回目だ。

 ザイジュという危険なサメがいようと関係ない。死亡確認をしない限り、私はヴェルを探し続ける。

 雷が落ちたせいか、海の中はかなり荒れていた。私は必死に海底の方へと泳ぐ。

 ……今まで泳いだこともない人間がよくここまで泳げると思う。

 人は逆境に立った時こそ、本領を発揮するのかもしれない。

 私は手と足を動かして、下へと向かった。

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