表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花と謳われた姫は蝶となる  作者: 大木戸です


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/44

37

 デッキに出た瞬間、全身が濡れた。

 雨は降っていないが、吹き飛ばされそうなほど強い風で海の波が大荒れだった。波が容赦なく船にぶ


「まさか、ここまで強くなるなんて……」


 想像以上の強風に私は一歩ずつ、吹き飛ばされないようにロープを掴みながら確実に前へと進む。

 こんなに危険な場所にわざわざ足を踏み入れた私はもしかしたら馬鹿なのかもしれない。


「見張りはもういいから、降りてこい!」

「早く中に入れ!」

「お前ら、しっかり捕まれ!!」

「いいか、絶対にここを抜けるぞ!」


 多くの声が飛び交っている中、私は船の縁に立ちながら指示をするヴェルを目にする。片手でロープにつかまりながら、進行方向を見ている。

 私はそれと同時に空を見上げた。

 …………まずい。雷が来る。


「西へ! 西へ行って!!」


 私は大きな声で叫んだ。ヴェルは私の声に気付き、こっちを見る。「どうしてここに」という目で私を見つめていたが、私はそんなことを無視して、ヴェルに叫んだ。


「雷が落ちる! 後、数分後!!」

「またそんなデタラメを! 俺らを不安にさせるようなことばかり!」


 私の言葉に被せるようにハーディの怒りに満ちた声がその場に響く。

 重い圧のある口調に私は思わず恐怖を覚えた。……信じてもらえない。むしろ、私を敵対し始めている。


「……三つよ。三つ大きい雷が落ちる。ここに」


 私は確かな声でそう言った。

 どうか私が嘘をついていないのだと信じてほしい。ハーディが「これ以上、船を混乱状態にするな!」と私を睨む。


「私も死にたくない! だから、迂回して!」

「この女を今すぐ縛って、船の中にぶちこめ!」


 しびれを切らしたのか、ハーディは近くにいる船員に大きな声を上げる。

 船員たちは私の方へと向かっていて、腕を掴む。結構な力に私は思わず顔を顰めてしまう。

 ……こんな風に男性に無理やり手を掴まれたのは初めてだ。


「西へ行くぞ」

 

 私が無理やり船の中に入れられようとした瞬間、ヴェルの澄んだ低い声が耳に届く。

 誰もが彼の言葉に固まる。ハーディも驚いた目でヴェルを見てから、口を開いた。


「ここの船長は俺だ!」

「だが、俺はシュラン国の王子だ。俺の決定事項に誰も口出しはさせない」


 そう言ったヴェルの威厳は今まで見た彼の中で最も厳格なものだった。

 圧倒的な差を見せつけるそのオーラに私は思わず釘付けになる。周りは驚いていたが、ハーディだけはそこまで驚いていないように思えた。

 ……きっと、彼はヴェルが第一王子だということを知っていたのだろう。


「西へ進め!!」


 ハーディが小さくため息をついて、そう決断した瞬間だった。

 今まで聞いたことのない大きな衝撃音がその場に走った。前方で天にも届きそうな水しぶきが高く飛んでいた。


「……雷だわ」

 

 私は小さく呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ