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自分でも苛立つぐらいに、ミジュ姫のことを考えている。
着替えるからと言って、俺は彼女から離れたところで男がここへやってこないか見張っている。
わざわざこんなことをしなくてもいいのかもしれない。…………人質に何かあっては困る。
……それにしても、彼女は一体何者だ?
俺にも妹がいるが、天気など読めっこない。ミジュ姫ほどの気品はないが、妹もしっかりと教育を受けている。
だが、ミジュ姫は王族教育だけではない、もっと上にある手に届かないようなオーラを身に纏っている。
あそこまで肝の据わった姫に出会ったことがない。思考力も凄いが、観察力も……、あと、環境適応能力。
あの姫を王宮の中だけで飛ばせておくのはあまりにも勿体ない。
俺が何者か言い当てた時に、ゾクッと恐怖に似た興奮を感じた。
今までどこに行っても俺が王子だとバレたことはない。確かにシュラン国の王族は褐色肌だが、シュラン国の国民の三割は褐色肌だ。
シュラン国の王子の名がヴェルナールと知っていたとしても、ヴェルと名乗っている以上、俺のことを「第一王子」だと判断する人はいない。
……服か、あまり考えずに着ていたな。
服が上質なものだと分かるのは、そのレベルの衣服を身に纏っているからだ。普通の人なら分からない。
こんな面白い女をセバン国は隠していたのか。……シュラン国の王子が攫ったとなると、本当に戦争が起きかねないな。
「面倒だが、その面倒を背負ってでも、あの女といたいと思う。……腹は立つが」
…………なにより、俺のことを全て見抜いているような瞳。
この世界が嫌い、か。
図星だったから何も言えなかったのかもしれない。鑑識眼は俺も養っているつもりだったが、それよりもミジュ姫の方が上だ。
人と関わることが少なかったはずなのに、あそこまで人を見抜くことができるのは何故だ?
セバン国の教育がすごいのか? ……それとも、ミジュ姫の気質か?
「服、ありがとう」
俺がぐるぐると色んなことを考えていると、後ろからミジュ姫の声が聞こえた。
振り向いた瞬間、彼女の姿に思わず固まってしまった。
軽く髪を一つにまとめて、ぶかぶかの俺の服を着ているのを可愛いと思ってしまった。
「ズボン、ゆるゆるだったからベルトも借りたわ」
高価なドレスを着ていないのに、高貴な者なのだということが分かる。
彼女は生粋の王族だ。どう足掻いても隠し切れない品性がある。
「ヴェル?」
俺が何も言わないからか、彼女は軽く首を傾げて俺を不思議そうに見る。
「……ニールはありのままで良いと言っていたが、世間に馴染め。すぐにミジュ姫だとバレてしまう」
「けど、この服を着ていたら、私が姫なんてことは分からないでしょ?」
「あんたは特別なんだよ。どんな服を着ていようが、着飾っていなくとも誰もが魅了されるような存在だ」
彼女にはもう少し自覚してもらわなければならない。
そこにいるだけで、ただ立っているだけで、惹かれるものがあるのだということを……。
「それは貴方もよ」
「俺は馴染んでいる」
「けど、私に何者か当てられたじゃない」
何も言い返せない。
今までに出会ったことのないタイプだ。男とか女とか関係なく、人として俺はこいつに興味を持っている。
「貴方が纏っているオーラも特別よ」
彼女の言葉が心地よく耳に響いた。




